不意打ちキスじゃ奪えない
「はァ、はァ・・・」
ポタポタと汗が流れ落ち、地面に痕を作るさまを熱さに揺れる視界でボンヤリと眺めながら、銀時は肩で大きく息を整えていた。
腕の中の少女は、既に意識を手放しており、スースーと寝息を立てている。
余韻も何もあったもんじゃないが。
片腕で彼女を支えながら、もう片方の手で顎を引き寄せ此方を向かせると、その唇を重ねていた。
「んっ―――・・・」
それは、あの時と同じように心地よくて。
相手の瞼は閉じたままで、口付け後に見つめ合えないことに多少の寂しさを感じつつも、自身を引き抜くと、互いの衣服を整えた。
「・・・ったく、いい気なもんだぜ」
捕らえられていた手錠を外してやり、その身体を横にして抱き上げると、胸元でぐっすりと眠る名前の姿に苦々しく吐き捨てる。
10歳近くも年下の少女に、こんなにも翻弄されて。
こっちの気持ちなどお構いなしで、気持ち良さそうに寝ている。
ハァと軽く溜息を零してから、このまま真選組の屯所に連れて行こうかと歩み出したところ。
「苗字っ!」
血相を変えて、駆け寄ってくる黒い影が一つ。
「「・・・・・・」」
顔を突き合わせた両者は、何も言えずに立ち尽くす。
「「・・・・・・」」
「・・・旦那じゃねーですかィ」
二人の沈黙を破るように、何とも言えない表情で立ち尽くす土方の後方から現れた沖田が、銀時を見付けて声を掛けた。
集まった三人の男。
何をしていたか、なんて互いに問える状況でもなく、気まずい空気が流れる。
が、このままの状態で居る訳もいかず。
「あー、何だ、そのー・・・とりあえず、ゆっくり休ませてやってくれや」
腕に抱えた名前の身体を土方に託すと、銀時はその場を足早に去って行った。
そして、我が家への帰宅途中。
「・・・あー、どうすっかなコレ・・・」
銀時は頭をガシガシと掻きながら、日が昇り明けていく空に向かって呟いた。
END.
不意打ちキスじゃ奪えない
こんな偶然じゃなく、今度は。