2021/12/30

2021年オフラインネタ帳大放出祭16



「えーと、公共の電波で言うことでもないんですが、大切な場所にこの中継が繋がっているので、ちょっとスピーチさせてもらいます。ちょっと長い時間ください。ファンのみんなもごめんな!でもちょっと協力してくれな!」
そうマイクに向かって言いつついそいそと手紙を取り出す。式場とつながるカメラマンが広報スタッフに呼ばれてきて、一歩前に立った。代表の応援してくれてるファンななんだなんだとどよめいていて、蓮やハナちゃん、一部の代表がスマホもって広報にまぎれている。私は息を整えて前をみた。
「俺の妹へ。本当は君の隣でヴァージンロードを歩くつもりでウィルと一緒にスーツとかを買いに行っていたのですが、まさかの国際試合に呼ばれてしまいました。断ろうとしたら、式中集中できないから行けとお前が言ってくれたのでお兄ちゃんはこの試合にでて、ここにいます」
その瞬間ざわっとする周り楽しすぎる。私はちょっと手紙を下げる。
「このスピーチをするためになんとかこの場所をもぎ取ってやろうと思っていたらハットトリックを達成してしまいました。お兄ちゃん凄くない?褒めていいよ。あと協力してくれた花森圭悟と持田蓮を始めとした日本代表も褒めてやってほしいし、なかなかゴールを決めさせてくれなかった相手も素晴らしいと称賛してほしい」
そう言ったら歓声があがる。うーん、相手の国のサポーターも歓声あげてくれるの嬉しいな。私はまた手紙を見た。
「こう言うスピーチで何を言うべきか。色々調べてみたのですが、これと言った手答えがなかったのでとりあえず君と俺の思い出を語ろうと思います。聞いてて気分がいいものではないかもしれません。ずっと秘密にした方がいいとも思っていました。でも、新しい道を行くきみに伝えるべきだと周りに言われたので伝えておきます」
迷ったのだ。本当に。黙っていた方がいいのではと。でも、みんなが言えと背中を押すから。祝いの席で言うことではないが、新しい道に進むのならいっておかなければならないだろう。
「さて、俺のとりあえずの記憶は俺が15歳、お前が5歳の頃から始まります。にーにおきて、とゆすられて目を覚ました時、俺の視界に入ったのがお前とゴミ屋敷でした。両親を一ヶ月待ってみても帰ってこないし、俺は食べて行くためにその年からバイトして働くことにしました。俺はそんな人生でもかまいませんでした。だってせめて君には人並みの幸せを送って欲しかったから」
そう、最初はその一心だったのだ。せめて、妹だけはと。
「俺が15の時、大家さんの知り合いの託児所に君を預け俺はなんとかETUに頭を下げて雇ってもらい、広報のバイトとして働き始めました。自分の好きなことができないのを我慢する代わりに、自分の好きなことを仕事にしようと思ったからです。今思えばそれが、俺の人生の転機だったのでしょう」
ぺらり、と二通目の手紙にうつる。
「当時、君に俺はこんな話をしました。お兄ちゃんは今日魔法使いにあったのだと。今も弟にそう言ってはお前はまたそんな嘘をとケラケラ笑うのですが」
あの時は信じてキラキラとした目を私に向けていたと言うのに。年齢を重ねるとはそう言うことなんだろう。
「その実、あれは幼い君達にわかりやすいように魔法使いと言ったのです。シンデレラが良い魔女であったフェアリーゴッドマザーにあって人生が変わったように」
自分がシンデレラなんて烏滸がましいにも程があるが。
「俺はETUのフロントスタッフや達海猛という選手に出会って人生が変わりました。再会したのに持田花森と喧嘩したあの日。達海さんが俺にお下がりのスパイクを渡してくれ、ユースのセレクションや年会費選手登録代を出してくれた為、俺はあそこで働きながらサッカーをすることができました。そのあとは君が知ってるようにユースで活躍し、ETUでプロになり、海外に移籍して今に至ります」
知らない人が多い話だ。だから周りはいまだにざわざわするし、カメラのフラッシュがたかれ、記者やインタビュアーは興味津々と言うふうに私を見る。蓮は頬杖ついてるけど。
「サッカーができることはすごく嬉しくて、プロになってお金に余裕ができて、君たちに与えられる選択肢が増えたことが嬉しかった。きっとセレクションに参加していなければ、そもそも達海さんに会っていなければ、君の好きなことをさせる為の資金がなく、下手をしたら君は働いていたかもしれません。雇われていなければ最悪二人で餓死してたかもしれません。そうならなくてよかったと俺は今でも安堵しています。達海さんやETUに感謝しましょう」
「俺たちには?」
「ついでに持田蓮と花森圭悟にも爪の先くらいの感謝を与えといてください」
蓮の茶々にケラケラ笑いながら私は告げる。手紙をもう一枚めくる。
「でも、当時の悩みはお金のことだけではありません。もっとも悩んだことは君だけを施設に預けるという選択肢があったことです。俺は悩みました。君には幸せになって欲しかったからこそ悩みました。どちらが君が人生を真っ当に生きれるのかわかりませんでした。君に恨まれても預けた方が君は幸せになるのではと思った日が何日もありました」
これは本当に悩んでいたことだ。サッカー見て気を紛らわしてみたりしたが、妹が高校に出るまで悩み続けたことだ。まぁ、弟に関してはもう息子みたいなものな為考えてないが。
「結局、預けないままでしたが、だからこそ君にはたくさん辛い思いをさせました。周りにいるはずのパパやママがいなくて泣いてたのも知っています。どうしていないの、と尋ねた君に俺はいくつしょうもない嘘をついたでしょうか。ごめんね。俺は仕事やサッカーで家を開けて、君には寂しい思いをさせていたでしょう。でも俺は君がおかえりと笑ったり泣いたりしながら迎えてくれるのが嬉しかったです。それは今もずっとです」
ただいまと俺がいえば、なんやかんやおかえりと出迎えてくれる。それがどれだけ救いだっただろうか。どれだけ嬉しかっただろうか。
「俺たちは君が思っているより周りに支えられて生きています。新郎くんや俺だけでなく。ETUのフロントだけでなく、当時のアパートの大家さんだったり、隣人のカップルや家族であったり、お寺の託児所の先生、児童福祉課の職員、俺たち担当になっていこう気にかけてくれたお巡りさん、長期の休みに遊びや旅行に誘ってくれた持田や花森とその家族、妹連れて遊びに行っても受け入れてくれたシロさんや越後、秋森や古谷、シムに岩淵。俺がなんかあった時に駆け込んでも仕方ないなと兄妹で受け入れてくれた成田さんや日本代表の関係者、ウィルやウィルの家族、マンチェスターのスタッフ、イギリスの先生、日本の先生たち。君にはたった一人のパパとママはいませんでしたが、代わりにたくさんの人や兄代わりがいたことを忘れないで。みんな俺たちの幸せを願ってくれていたから」
まぁ私達が34歳になった今日本代表のメンバーは結構入れ替わってるから、その頃のメンバーはテレビで見てるかもしれないが。
「何人かに感謝するようにと言いましたが、君が俺の行動に感謝したり、俺に恩を感じることはありません。俺にとっての当たり前を君にしただけです。もしどうしてもそれを返したいのであればその気持ちを新しい家族に向けてください。子供を置いて行くのはダメです。俺みたいなやつはほんのひと握りで、多くは命を落としたりするからです。もし何か辛いことがあったり我慢できなくなったら周りに相談してください。おかしいなって思った時点でいいのです。早ければ早いほど、救いの手はたくさんあります」
それは妹だけに向けた言葉ではないのだが。
「一旦話を変えて、新郎くんへ。妹がこれからお世話になります。君には前もって色々話しておきましたが、それでも妹を選んでくれてありがとう。あとマスコミに黙ってくれてありがとう。君はあの時、妹を幸せにします、と俺に言いました。その時はありがとうと言うだけで、言えなかったことがあります。君がもう一人の弟になることが決まった今だから言うけど」
私はそう言って笑う。
「君が一方的に俺の妹を幸せにする。そんなことだときっと君が疲れてしまいます。君も妹に幸せにしてもらうべきです。辛いこと、泣きたいこと、腹立つこと、自分が思っている当たり前が当たり前じゃないこと、それはお互い様というやつです。だから、お互いを尊敬し感謝し家族みんなで幸せになってほしいと俺は思います」
また便箋をめくる。うーん、泣きそうだ。泣いたら絶対蓮に揶揄われる。ハナちゃんの方が泣きそうになってるのをみて平静をたもつ。
「最後に。俺の大切な妹へ。何もかも俺の独りよがりの偽善で、君には今までたくさん我慢をさせてしまいました。たくさん泣かしてしまいました。たくさん怒らせてしまいました。良いお兄ちゃん、良い保護者でいれた自信ははっきりいってありません。何故なら俺は周りが引くほどサッカー馬鹿だからです」
そこでちょっと泣く。俯いたが、周りに頑張れと言われて目元を拭う。
「こんなサッカー中心の馬鹿な兄ちゃんでごめんな。寂しい思いさせたり、怒らせたり、泣かせたり、苦労かけさせたりしてごめんな。お前が焦がれたパパママ、大人の保護者じゃなくてごめんな」
ハナちゃんがもらい泣きしてる。蓮は淡々としてるが。私は顔を上げた。
「でも俺はこれからもサッカー中心の馬鹿でお前のたった一人の兄ちゃんでいたいから、これからもこんなやつでいることを許してくれな。あとお前が帰ってくる場所を辞める予定もないからな。なんかあったら安心して帰ってきてほしい。俺はいつも通り腕を広げて頑張ってんなってハグして歓迎します」
はー言えた。目元をまた拭って、息を整えて笑う。
「俺のたった一人の大切で愛する妹へ。結婚おめでとう。君が、君たちが新たな道に一歩踏み出した祝福に、盛大な拍手と今日の試合のゴールを捧げます。あと新聞の一面も」
そう言ったら拍手してくれる周りに私は息をホッと吐いて手を振ってはけようとする。蓮がやってきて私の頭をぐしゃぐしゃにしながらカメラを見た。
「妹ちゃん結婚オメデト。お前の兄ちゃんの世話は俺がするから気にせず幸せに」
「はぁ?俺がお前らの世話してんだよ!」
「なぜっ……俺も入る……」
「なんでハナはガチ泣きしてんだよ」
「ううっ、だって……ナマエ……」
「はいはい、ハナちゃんにとっても妹みたいなもんだもんな〜」
「ナマエの妹……結婚おめでとう」
「二人の結婚スピーチも俺やるな。その時はほそみんと椿丸と窪ちゃんに協力してもらうし」
「お前何一人で残ってるつもりなの?馬鹿?俺が最後まで残るんだよ」
「な、お、俺が!」
「ハナは無理だろ。コミュ力ないし」
「ぐ」
「ナマエさんは結婚いいんですか」
「あともう一人子育てあるからなぁ」
「……ナマエは結婚するつもりがないだけだろう」
「バレてら〜」

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「お前の変な決めポーズ集特定してるYouTubeあるよな」
「あるある。というか、解説の人が最近特定してるんだよな。この前仮面ライダーのポーズ全員でやったら特定されてて笑ったわ」
「仮面ライダー見るんですか?」
「弟と一緒にニチアサ追いかけたり二画面でニチアサのサブスク見たりしてるから。龍騎のポーズしたらなんか編集されてて笑った」

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