曲の趣味が合わないことを気にしているわけではない。だが、自分の好きなものは好きな人にも好きになって欲しいわけで。
隼人は、真剣にアイドルのMVを見る亜実の耳に刺さった白いイヤホンを抜いた。
「どうしたの隼人くん」
「いや、それそんなに良い?」
「隼人くんもアイドルソングに興味持った?!」
「そ、そうじゃないんだけど……」
十七時を過ぎたというのに未だに高いところから、太陽の光が差し込む。隼人の顔には眩しい日差しが目に付くが、焼けたら嫌だからと言って、亜実の座る席は影になっていた。
「亜実も邦ロックとか聞いてみなよ」
「邦ロックかぁ……いまいちピンと来る曲が無いんだよね」
「えー……」
隼人は分かりやすく口を尖らせて、ぶすっとした表情をする。亜実の聞くアイドルソングがきらいなわけじゃない。好きな曲もいくつか見つかった。だったら次は俺の好きなものも好きになって欲しい。
子供みたいな単純な理由であることは分かっていても、そう思わずにはいられなかった。好きなものを好きな人と共有したい。そう思うのは当然だと思っていたから。
「あ、でもね。ちょっといいなって思った曲もあるんだ」
「ほんと?! どれどれ?」
「うーんとね、なんて言うんだっけ。この前隼人くんに教えて貰ったやつ」
「この前? じゃあ俺も覚えてるかな」
隼人は頭の中で流れている曲を一つずつ、手に取るように並べていった。あれじゃない、これじゃない。
「君はロックを聴かない」
亜実の声が聞こえて、考え込むように俯いていた顔を上げた。彼女は満足したように笑ってそのまま言葉を続ける。
「隼人くん、この曲私みたいって思ったことあるでしょ?」
「そ、そう……かも?」
隼人の頭に最後に浮かんだ曲名は、まさに亜実が口にした曲だった。確かにその曲は彼女を表すかのような曲で、最近はあまり聴いていないような気がした。
「その曲なら、俺サビ弾けるんだ! ね、ちょっと聴いててよ」
隼人は急ぐようにギターの準備をする。いつの間にか亜実は隼人の方へ体を向け、ワンマンライブが始まるかのように見えた。
「あんま上手く弾けないかもしれないけど、亜実に聴かせるためだから頑張るよ」
隼人の持つピックが、西日に照らされて輝いていた。そうして、ゆっくりと弦に触れて音を奏でた。
*
「このような機会で、この曲のカバーをさせて頂けることを光栄に思います。それでは聞いてください。君はロックを聴かない」
いつの日だったかなんて覚えていない。ただ、真夏の日差しが照らす教室でたった一人の為に歌ったことだけは覚えている。
結局、彼女はロックを好むことはなかった。けれども、彼女が好きだと言った俺の歌と、俺の声で。あの日の彼女のために歌う。
彼の脳裏には、真っ白になった彼女とのトーク画面が離れなかった。
「僕はこんな歌であんな歌で、恋を乗り越えてきた」