すると、視界に見慣れた髪色が映りこんだ。彼は思わずひとつ、ふたつと駆け足でその人物へと近づいて行った。
「あみ!おはよう!」
「隼人くん? びっくりした。おはよう」
「俺の方こそびっくりしたよ。今日どこか行くんだっけ?」
「今日はファコンに行ってくるよ」
「あ、そっか! 想楽さんの彼女さんと一緒に行くんだよね。俺も早くライブやりたいなぁ〜」
隼人は背中を仰け反らせ、大きな声で叫んだ。もっともっと、自分を見てもらえる機会が欲しい。俺の音楽がたくさんの人に届いて欲しい。そして、彼女には俺の夢を一番近くで応援していて欲しい。
隼人は拳にぎゅっと力を込めた。今はその時に備えて一生懸命練習することが一番。彼もそれは分かってはいるものの、同じ事務所でライブをやるというユニットがいると、いても立っても居られなくなってしまった。
「俺もあのステージに立てるように頑張るからさ、絶対見に来てね。あ、想楽さんの彼女さんと一緒に!」
「もちろん。そのつもりだよ」
当たり前のように答えるあみに、隼人は胸が熱くなった。応援してくれる人の言葉というのは、とても暖かい。堪らず彼は彼女の手を取った。驚いた顔を見せた彼女に、隼人はにっこりと笑いかける。少し赤くなった頬は、寒さのせいだと自分に言い聞かせた。
駅に着くと自然と手が離れていく。また連絡するねと言うあみと別れ、反対側のホームへと向かう。少し暖かくなった手のひらを見つめ、彼女の方へ振り返る。到着のアナウンスが鳴り響くが、隼人の頭の中は新しい音で埋めつくされていた。まだ、もう少し。
「あみ!」
ぎゅうっと強く握った手のひら。隼人はあみの目を見つめて、少しだけ恥ずかしそうに眉を下げて笑った。
「近くまで送るから、もう少し一緒に居よう」