考えることは同じ



赤くなった指先で、液晶画面をなぞる。
染み付いた指は、寒さで固くなっていても自然と彼女の名前を辿った。
何度も打ち込んだ彼女の名前を、見て隼人の口角は自然と上がる。去年は送ることの出来なかったメッセージを添えて、紙飛行機を飛ばした。

『あみ、メリークリスマス! 朝早くからごめんね。今日仕事だから早めに送りたくて。あと、去年はこうやって連絡出来なかったからすげー嬉しい! あみは今日イベントだっけ。写真撮ったら見せて! あみの顔見て頑張れると思うから! 楽しんできてね!』

自分で送った文章を読み返して、小っ恥ずかしくなった隼人はパッとスマホの電源を落とす。そして、すぐにぶるっと震えた端末に、思わず視線が向く。しかし、それと同時に春名に名前を呼ばれる。隼人は通知欄にいる彼女の名前を見て、カバンの中へスマホをし舞い込んだ。



時計の針が頂上を過ぎた。隼人は早朝からの仕事を終え、昼休憩を取っていた。
今朝、カバンの中にし舞い込んだままになっていたスマホを取り出して一番に彼女の名前に触れる。ぽんぽんと画面に飛び出してきたのは、二枚の写真。隼人は口に出す言葉を反射的にそのまま彼女に送っていた。

『え! やばい、二枚も?!』
『めちゃくちゃかわいい ほんとにかわいい ナンパされないようにしてね』

つい、そんな言葉を文字にしていた。学生時代とは違う心配事が増え、彼女に対してかける言葉もだいぶ変わったような気がする。数年前の隼人なら、こんな風に素直にほかの男に対する心配を口にすることは出来なかった。それを口にするのが、恥ずかしくて、彼女に余裕があるように見られたくて。格好付けたかった自分がいたのだ。
さらに彼女と昔話をしたとき、意を決してそのことを打ち明けたのだが、彼女には全てバレていたらしい。
顔から火が出そうなくらいの羞恥に襲われたが、逆に吹っ切れたのもそのタイミングだった。それ以降、隼人は彼女への嫉妬心や束縛心を隠さないようになった。
それが、彼女にはまた惚れる一面になったことを隼人は気付いていない。

『仕事、二十時くらいに終わるから、あみが大丈夫だったら少し会いたいんだけどどうかな』

クリスマスの夜に会えないなんて、嫌だ。彼の頭に浮かんだ素直な感情をそのまま言葉にする。すると、すぐにぴこんと彼女の名前が画面に映る。隼人は即座にトークアプリを開き、既読をつけた。

『大丈夫! 会えるよ。私も会いたいと思ってた』
隼人はまるで彼女に微笑むように笑顔になり、すぐに返事をした。
『よかった! 嬉しい。じゃあ仕事が終わったら俺があみの最寄りまで行くね』
『隼人くんも仕事で疲れてるし、無理させられないよ。真ん中の駅で会おう』
『じゃあ、この駅でいい?』

そう言って隼人が提案したのは、彼女の最寄りに近い駅だった。すぐに彼女から「いいよ、分かった」と返事が来る。そして、その直後に「ありがとう」と五文字が並んだ。
まだまだ格好よく見せるには、修行が必要のようである。



仕事が終わると、隼人は電車に飛び乗った。帰り際には、春名と四季に茶化されたが今に始まった話ではない。ただ、春名にはほんの少し保護者のような目線を向けられてむず痒くなってしまった。

「会いに行くんだ?」
「そ、そうだけど……」
「良かったな。クリスマスに会えるようになって」
「……それ、ハルナに言われると照れるね」
「まぁな。俺は二人のキューピットだからな」
「ご最もです…………」

冬の寒さのせいか、羞恥のせいか。隼人は手のひらで腕を擦りながら彼女の待つ駅へと急いだ。

さすがクリスマスイブと言ったところだろうか。人の多さに圧倒されながらも、彼女の姿を探す。変な人に絡まれていなければいいけど……。
すると、マフラーに顔を埋める彼女の姿が目に入る。隼人は足を早めて彼女に駆け寄った。
彼女の目にも彼の姿が映ったようで、彼女の表情が明るくなる。隼人は、彼女の手にする缶のココアを見て、待たせてしまったと心の中で反省をした。

「メリークリスマスイブ! 待たせてごめんね」
「ううん、私が早く来ちゃっただけだから」
「俺がもっと早く来ればよかったね。というか、写真送ってもらったときも言ったけど、今日のあみすごく可愛い」
「ありがとう。隼人くんも似合ってる。かっこいいね。帽子もすごくいい」
「へへ、ありがとう。会っていきなりで悪いんだけど……これ、俺から!」

隼人が差し出したのは、クリスマスプレゼントだった。彼女は丁寧に中身を見る許可を取り、恐る恐る袋の中を覗き込む。そして、中身を確認するとぱっと顔を上げ、少し目を見開いた表情の彼女と目が合った。

「あみ、ピンク好きだったよなと思って。最近大きめのマフラーが流行ってるってハルナとか咲が教えてくれたからさ。きっと似合うと思ったんだ。なんかさ、付き合って初めてのクリスマスの時も、確かマフラーを渡したんだけどそれを思い出しちゃって。制服の時とは違うかもだけど、あの時みたいにまたマフラーを渡したいなと思っちゃってさ」

へにゃっと崩れた笑顔を見せた隼人は、少し恥ずかしそうに頬を赤くする。
すると、ぷつりと何かが切れた彼女の瞳に涙が浮かんだ。隼人は慌てて、彼女の涙を拭おうと手を伸ばした。優しく目の下に触れようとして、赤くなった自身の指先を思い出す。隼人は上着の裾を伸ばして、彼女の涙を拭った。

「私からもプレゼントあるよ。開けてみて」
「ありがとう! 何だろう?」

リボンを解いて、箱を開くとそこに入っていたのは革製の手袋だった。隼人は先程の彼女と同様に、目を見開いて顔を上げ、彼女を見つめた。

「隼人くんと全く同じこと考えてて、それでさっきビックリしちゃった。……私も高校生の頃、手袋あげたよね。あの時よりも少し大人になったし、改めて送りたいな、って……思い、ました……」
「あはは、なんで敬語! でも、敬語になっちゃう気持ち分かる。俺も同じ。すごい照れるけど、すっげー嬉しい……同じこと考えてたんだな、俺たち」

隼人は手袋を見つめて、きゅっと口を結んだ。明日からは、真っ赤な指先とはお別れだ。

「これもう明日から使う! デザインも可愛いし、俺が持ってる服にもぴったり。ありがとうな、あみ」

二人は互いに笑い合い、鼻先を赤く染めた。恥ずかしさから、つい視線が下を向く。すると、彼女の持つもう一つの袋に気づいた。隼人が指摘をすると、
彼女がハッとしておずおずと、もう一つの袋を差し出した。

「これ、ケーキ買って来たんだけどどこで食べよう……」
「ケーキ?! もう、何から何までほんとにありがとう。食べるとこってなると、ここから近いのは俺の家だけど、それでも大丈夫?」

平然とした顔で、顔を覗き込んでくる隼人に彼女は思わず、顔に熱が集まる。頭が混乱してきた彼女は、ぺらぺらと言い訳を並べてしまう。隼人は、慌てふためく彼女を見て、優しく笑った。その顔に、どきんと心臓が跳ねる。

「狙ったわけじゃないとか、気にしてないし。別にわざとでもいいけど……じゃあ、ここに居ても寒いから行こ」

隼人は彼女の手を取り、そのままホームへと足を進める。ぎゅっとに握り返された手のひらに、驚いた彼が振り返るまであと少し。

>> list <<