君の誕生日



カチ、と針が進む。あと三周。長い針が十二を超える。
隼人から電話がかかってきたのは、丁度そのタイミングだった。何気なく画面をタップしているつもりでも、心のどこかで期待している自分がいる。秒針より早く鼓動を打つ心臓に、嫌々しながらも心地いいと感じてしまう。自然と上がる口角に、彼女はぱちんと小さく鞭を入れる。
亜実は、なるべく平然を装いながら彼の名前を呼んだ。

「あ、良かった。もう寝ちゃったかと思った」
「ううん、まだ寝てないよ。どうしたの?」

そんなこと聞かなくても分かっている。けれども、どうしても隼人の口から聞きたい。欲張りな自分に、ちくりと胸が痛むが、彼はそんな彼女の痛みを意図も簡単に抜いてしまうのだ。

「亜実の誕生日、一番に祝いたいなぁって思って。今年は俺も亜実も仕事だから、夕方まで会えないし。せめて一番に言いたいなって思ってさ! ……って、毎年言ってるよね。これ」
「ううん、嬉しい。毎年ありがとう」
「えへへ、どういたしまして。あ、ちゃんとプレゼントも用意してあるから楽しみにしてて?」

顔が見えなくても、今の隼人は満面の笑みで話をしているのが目に浮かぶ。真っ直ぐな言葉で伝えてくれる彼の素直さが、眩しくて、好きだった。

カチ、と針が進む。あと一周。
他愛もない会話をしていたが、あと少しで日付が変わることに気づいた隼人が、何かを思い出したかのようにあっと声を出す。しかし、彼は何事も無かったかのように、そのまま話を続けた。
どろり、と重い感情が垂れる。隼人の些細な言葉と言動で、左右されてしまう自分の感情はまるで玩具のようである。亜実は、聞いていいものか分からず、言葉に詰まっていると、突然隼人が通話をビデオ通話に切り替えた。

「え、私すっぴんだよ」
「ちょっとでも亜実の顔が見たいなって思ったんだけど、ダメ?」
「……だ、駄目じゃない、です」

その言い方は良くない。隼人は優しい手で、亜実の手を引く。そして、彼は隣に並ぶのを待ってくれる。
隼人に言われるがままに、ビデオ通話に切り替えると、画面いっぱいに彼の顔が映し出された。不自然にまでカメラと近い隼人に、思わず亜実は眉をひそめた。

「隼人くんなんか近くない?」
「え?! 近いかなぁ?」

上擦る隼人の声で、何か隠し事をしていることは分かった。けれど、彼の表情を見る限り、やましいことでは無さそうなことは分かる。
亜実は、隼人の画面をじっと見つめた。そして、画面の端に映りこんだ看板を見て、思わず声を出した。だって、その看板は。
カランと床に落ちたハンガーには気づかない振りをした。慌てて階段を降り、玄関の扉を開ける。
そこには、苦笑いをして立つ隼人の姿があった。

カチ、と針が進む。長い針が十二を超える。

「誕生日おめでとう、亜実。やっぱり会いたくなっちゃった!」

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