君に伝えたい


眩い光たちが、隼人の瞳に映る。目の前に降り注ぐ銀色のテープに、少し頬を赤くした自分の顔が反射した。
思わず、手を伸ばして触れようとしてみる。

しかし、隼人の手は空を切るだけ。さっきまで視界いっぱいがペンライトで埋め尽くされていたにも関わらず、彼の視界は真っ白な天井を映すだけだった。

「ゆ、夢かぁ…………」

隼人は、ぽつりと独り言をこぼし、ばたんと腕を倒した。
楽しみすぎて早起きしちゃうとか、遠足前じゃないんだから。
頭ではそう思っていても、体は素直だった。目を閉じて再び眠りにつこうとしても、瞼は降りて来なかった。



余計な運動をしたら、きっと旬に怒られる。それでも、そわそわする身体を落ち着けるには、走る以外の方法が思いつかなかった。
ふぅと、白い息が見える。普段なら寒さに震える時間なのに、今日は身体がぽかぽかとしていた。隼人は、たんたんと軽く足踏みをして、宛もなく足を進めた。

夕焼けとは違うオレンジの色、小さな鳥の鳴き声。真っ直ぐと伸びる道に響く足音。
いつもと同じ風景なはずなのに、隼人には知らない風景を見ているような気持ちだった。変な感覚と思いながらも、その違和感が心地が良かった。
ふと、隼人の鼻を甘い香りが掠める。ぐうっと鳴ったお腹に、自分が空腹であることを思い出した。朝食もとらずに、勢いのまま家を出てきたことを少し後悔した。その匂いに誘われて、角を曲がる。
この先に何があるんだろう。まだ知らない世界が、目の前にはあるのかもしれない。
隼人は、角からそっと顔を出す。そこにあったのは小さなパン屋だった。



パッと顔を明るくした隼人は、そのまま店の前で まで走る。朝の時間帯しか空いていないようで、彼がこのお店を知らないのも納得だった。店の外でじっと眺めていると、中にいた店主が隼人のことに気付く。
ばちっと目が合って、思わず身体が固まる。あたふたとしていると、カランと扉が空いて、店の中に手招きされた。

隼人の前に差し出されたのは、焼きたてのパンだった。でも、俺、お金、と断ろうとしたが、彼の手には既にパンが置かれていた。

「美味しく焼けたから、誰かに食べて欲しくなっちゃったんだ。だから食べて、感想を教えてくれる? 代金はそれでいいよ」
「いや、あ、でも……わ、分かりました……」

隼人は、ゆっくりとパンを口に運ぶ。ぶわっと香る小麦粉の香りと熱が彼を包み込んだ。
隼人は目を見開き、店主の顔を見つめる。すると、彼の言葉を汲み取ったのか、満面の笑みを浮かべた。
こんなに美味しく出来たら、確かに食べて欲しくなる気持ちも分かるなぁ。俺だって、いい曲が書けたら誰かに聞いて欲しくなるもんな。
と、そこまで考えて隼人はハッとする。俺の今のこの感情は誰に伝えればいいんだ。

「あ、あの! すっごく美味しいです!」
「はは、君の顔を見ていれば分かるよ。美味しそうに食べるんだね」
「あ、ありがとうございます……それで、これ買って行ってもいいですか?」



隼人は、パンを揺らしながら来た道を戻る。ふんわりと香る小麦の匂いが、再び彼の食欲を掻き立てた。
彼は、スマートフォンを取り出して、先程撮ったお店の写真とパンの写真を送る。たたた、と素早く文字を打ち、感情のままに言葉を綴った。
俺の感じたこと、全部伝えたい。真っ先に頭に浮かんで来るのは、High×Jokerのみんな。そして。

「あみ、おはよう! 今日はとうとうライブ当日だね! 楽しみすぎて早起きしちゃった。あとこれ見て! 美味しそうなパン屋さん見つけたんだ! 朝の時間しかやってないみたいだから、今日は渡せないけど……今度一緒に行こう! それじゃ、会場で待ってる!」

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