リフレイン


この一週間、彼女の視線は小さな端末の画面に釘付けだった。暇さえあれば、先日行われたライブのアーカイブ配信を見返しているようで、それは想楽の家に居ても変わらなかった。

「いつまで見てるの、それ」
「いつまでも見るに決まってるでしょ。あー楽しかったなー」

ソファに座り、画面を凝視し続けること数時間。想楽は思わずため息をついた。生憎、彼はステージ上から彼女の姿を見つけることは出来ず、客席でどんな様子だったのか全く分からない。さらに言えば、写真すらも見せてくれないのである。彼女曰く、アイドルとファンである時の写真を本人に見せるわけにはいかない、とのことらしい。
彼女は、配信を見ながら絶えず感想を口にしている。その話、何回聞かされたと思ってるの。と、いいそうになるのを何とか堪える。
想楽は、彼女の隣へ座り、見ていた端末を覗き込んだ。

「て、ちょっと。僕たちの見てたのー?」
「正直、リフレインアトリウム良すぎて何にも覚えてないんだよね」

あはは、と笑う彼女だったが、想楽は何だか不服であった。曲を貰ったときも、こうしてステージに立ったときも、頭に浮かんだのは彼女の姿なのに。ちらりと横目に彼女の顔を見ても、視線が合うことはなく、相変わらず画面を見続けていた。

「そう、この花束の演出良かったなぁ。これ誰が考えたの?」
「あー……これ? これは、クリスさんが花束なんか持ってみるのはいかがでしょうって」
「へえー、クリスさんが提案したのなんか意外かも」
「そう? まあでも海以外の案が出てくるんだなーとは思ったかなー」
「ちょっと馬鹿にしてない?」

そう言うと、彼女の視線は再び画面に戻ってしまった。そして、今までとはうってかわり、言葉を発することなく真剣な表情て画面を見つめている。

「ちょっと、僕たちのときは何か感想ないわけー?」
「静かに。今大事なところだから」
「えー……」

というか、それ。この前も見てたじゃん。
想楽は、二度目のため息をつく。耳に流れ込んでくる歌詞を頭の中で歌いながら、彼はするりと彼女の左手を取る。
小指を絡め、指先にキスを落とす。
視線を上げれば、想楽の想像通り、顔を赤くした彼女と目が合う。その表情に満足した彼は、彼女が反対の手に持っていた端末を抜き取る。手のひらを撫で、そのまま手を握りしめた。

「もういいでしょ。こっち見てよー」
「そ、それとこれは話が違うというか…」
「なんでー? というか、これ聞いてる時、りおんはどんな気持ちだったの」
「ど、どんなって言われても」
「僕は、りおんのこと想って歌ってたんだけどなー」

ぐいっと顔を近付けて、想楽は彼女に笑いかける。目を逸らすことの出来ない彼女は、ただただ顔を赤くして、彼を見つめることしか出来なかった。しかし、彼が逃げることを許すわけもなく「教えてよ」とさらに距離を縮める。ふるふると震える体を押さえようとするように、彼女はぎゅっと手に力を込め、ふいっと顔を背けた。

「お、覚えてない……かっこよかったことしか……」
「本当にー?」
「本当だってば!」

これ以上揶揄うのは、やめておこう。想楽は彼女の手を離した。未だ耳まで真っ赤になった彼女を見て、彼はそっと耳元に顔を近づける。

「大好き」

それだけ言うと、満足気に笑い、想楽はソファから立ち上がった。
今日の晩御飯は、彼女の好きな物にしようかな、なんて考えながら。

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