ただしきみに限る


最近、なんとなく轟くんが変わったような気がする。何が変わったかと聞かれたら、ここがとは言いづらいんだけど。なんだか、そう、雰囲気がいつも以上に柔らかくなったと思う。今日だって、帰り道にあるファストフードのお店で他愛ない話をしていても、轟くんはずっと嬉しそうに若干目を細めて聞いてくれている。(きっと、轟くんのことをよく知る人でないと分からないくらいの表情の変化だろうとは思うけど)



「それでね…ってごめんね轟くん、わたしばっり喋っちゃって……」
「いや、いい 気にすんな」
「でも…」
「仁科が喋ってんの見てると、元気出るからな」
「ほんと?」
「ああ、表情がコロコロ変わっておもしれェ」
「…は、恥ずかしい…」
「恥ずかしがることねェだろ」



わたしは、轟くんの前だとそんなに表情豊かなんだろうか。自分が他の人にどう見られているかなんて、多少は気にするけれど表情まで気にするのは難しい。顔に熱が集まるのを感じて、顔の半分より下側を両手で覆う。無表情でじいっと見つめてくる轟くんの視線が熱い。本当に、ここ最近の轟くんはおかしい。すっと伸びてくる轟くんのごつごつとした手は、そのままわたしの手に触れてゆっくりと顔から引きはがす。



「いいから、もっと色々聞かせてくれ。仁科と喋ってると時間経つの早いから、いくらあっても足りねェ」
「………轟くん、それ他の女の子に言っちゃダメだよ…」
「?何をだ」



首を傾げてこちらを見る轟くんの左手は、一向にわたしから離れようとしない。天然たらしめ!と心の中で悪態をつきながら、中身のほとんど残っていないシェイクのストローを吸った。



20220621