恋に溶け出すシャーベット


最近見てるとイライラする奴がいる。デクのことではなく、クラスの女子だ。(いやデクのことももちろんクソムカつくが)そいつと最初に話したのは入試の時。向こうは覚えてるか知らねぇけど、珍しく印象に残ったのだ。助けた覚えもねぇのに助けられたと勘違いしていたおめでたいヤツ。そんなぬるい考えだ、こいつは落ちたなと思ったが、入学してみれば同じクラスにそいつの姿があった。教室の一番後ろでニコニコと笑うそいつに舌打ちをして席に着いたのだった。(軽く手を振られた気がしたが、気づかないふりをした)

食堂で話しかけられた時、びくびくとしながら話しかけてくるこいつにムカついた。入試の時はあんなに強引に話しかけてきたというのに、どうしてそんな態度をとるのか。ふざけんじゃねぇ。そんなイライラをぶつけてしまえば、彼女は途端にツンとした態度になり、俺の言うことは無視したり突っかかってくるようになった。半分野郎と話すときはいつも笑顔のくせに、俺には仏頂面しか見せない。ああ、イライラする。ガン、と机の角を蹴って外の自販機に向かえば、飲み物を買おうとする仁科の姿。飲み物を何にしようか迷っているのであろう、俺の気配には全く気付いていない。ピッと適当にボタンを押せば「えっ!?!」という声を上げて振り向く。驚いた顔から一転してむすっとした顔になる仁科に、またイライラした。



「何すんのよ!お、おしるこって…」
「少しは笑ったりできねぇのかよ、お前は」
「…は?爆豪だって笑わないじゃん」
「アァ?」
「一緒にいて笑ったり楽しいこと共有したりしてないのに、笑えるわけないよ」



そう俯きながら言うコイツに腹が立った。なんでテメーとニコニコしながらお喋りなんぞしなきゃいけねぇんだ。そう思いながらも、普段よく笑うような彼女が俺の前でだけ笑わないのもムカつく。あ〜〜〜クソ、こいつ見てるとイライラしかしない。じいっと俺のことを見上げる仁科に気付き、「んだよ」と返せば「わたしの名前、ちゃんと知ってる?」と眉間にしわを寄せて言った。



「……仁科だろ」
「なんだ、知ってるじゃん」
「あ?当たり前だろカス」
「ほらそれ、お前とかテメーとかカスとかボケとか…そういうのばっかりだから知らないんだと思ってた」
「俺を誰だと思ってんだ」
「…俺様何様爆豪様?」
「うるせえわ」



名前くらい知ってるっつーの。入試の日から、ずっと変な奴だと気にしていた俺がバカみたいじゃねーか。周りのことが見えてないのではと言われてきたが、ちゃんと見ていたつもりだ。こいつが水を使った個性だというのも、レスキューポイント稼ぎまくってんのも、変なところで動けなくなって泣きそうな顔してんのも全部見てた。クソが。行き場のないよく分からない感情を誤魔化したくて、仁科の頭をわしゃわしゃと乱雑にかき混ぜる。



「うわ、何すんの!」
「うるせぇ、テメーが半分野郎といる時にニコニコしてる顔が鬱陶しいんだよ!」
「え、何?轟くんと仲良くしたいの?」
「っハァ!?!?!テメェマジでバカか!?!?!」
「え?違うの?」
「俺はお前がっ……!!!」
「わたしが、何?」
「……なんでもねぇ」
「…ふは、なんかスッキリした!ね、爆豪!」
「!!!」
「どしたの?」
「いや、なんでもねえ、からこっち見んなカス!!!」



不意に出た仁科の笑顔が意外で、つい見入ってしまった。んだよ、やれば出来るんじゃねーか。俺の前では入試以来一切見せなかった笑顔を今見れたことで、よく分からない感情が込み上げてくる。もう一度髪の毛をぐしゃぐしゃにかき撫でれば、キッと目を吊り上げて俺のその手をつかむ仁科。必死な顔が面白くて、もっと強くする。



「ちょっともう!爆豪のバカ!!」
「テメエの方がバカだこのバーーーカ!!!!」
「ひっどいそれ女子に言うことじゃないし髪の毛ぐしゃぐしゃにするのも女子にやることじゃない!」
「うるせえ死ね!!!」




20220602