御乱心ランデブー


「勝己ってぜ〜〜ったい嫌な奴だと思ってた」



そう零せば、目の前に座って眉間にしわを寄せながらハンバーガーにかぶりつこうとした彼は「ハァ?」と声を上げた。初めて入試で彼の姿を見たときは本当にすごい人だと思ったのだ。ばったばったと仮装ヴィランのロボットを爆破させていく彼の姿を今でも鮮明に覚えている。あれだけ動けていたらきっと合格だろうなあと思っていたけれど、いざ入学して同じクラスに入ってきたと思ったらあまりにも荒っぽい性格で『嫌な奴』という印象に上書きされてしまった。



「…気安く名前で呼ぶんじゃねぇよタコモブ」
「タコモブって何!ま、最初と比べたら怒鳴ったりすることも少なくなったからいっか」



「最初は最悪だったのにね〜」にししと笑えば、勝己はじとりとした視線を投げた後、無言で食べかけのバーガーに手を付けた。自分のポテトがなくなってしまって、彼のポテトをひとつもらう。(てめ、ふざけんな!と声が聞こえたが無視をした)最初の頃はこうして一緒にハンバーガーなんて食べるもんかと思っていたし、そもそもわたしが食堂で無理に話しかけたりしなければ険悪な雰囲気にもなってなかったはずだ。デクくんのことを貶したりするようなこいつのことを認めたのはいつからだったか。



「あの…そのカレー、」
「あ?」
「え、っと、かなり赤いなあって…激辛?じゃあないよね?もっと辛…」
「うるっせえな!!!俺が何食おうと俺の勝手だろうがよ!!!!」
「…別にカレーに文句つけてないし爆豪くんに文句もつけてないじゃん」
「ハァ?」
「……」
「なんか言えよテメェ!!!」



あの時には会話と呼べるものでもなかったし、最初からほぼ最悪だった。会話は相手がいるからこそ成り立つものだし、ぞんざいな言い方になってしまってはよくない。ひとつひとつの言葉を丁寧に発することが大切だと思う。今でこそ、きっとあの時は機嫌が悪かったんだろうなあとも思うことはできるけど、それでも苛々としてしまったものは仕方がない。そのあとは勝己の言うことに全く聞く耳を持たなかったし、授業の演習で同じチームにされたときはテンションだって下がった。けれど、彼だって進んでる。勝己のことを観察したりしているうちに、なんだかんだで優しかったり、状況を把握して行動していることも分かった。言い方が素直じゃないだけで、こいつのことを嫌な奴と決めつけるのは止めたのだった。



「自分が勝己でいいって言ってきたんでしょ、かっちゃん?」
「かっちゃんだけはヤメロ…」
「ふは、みんなバクゴーって呼んでるし、かっちゃん呼びはデクくんがいるし、勝己だとなんか特別って感じでいいね!」
「……トクベツ…なんかじゃねぇよカス!!!勝己の方がマシ程度だわ!!!」



BOMB!と効果音がつきそうなくらい大声で怒鳴る勝己が面白くてわははと笑う。焦凍くんがいない日はこうして放課後を一緒に過ごすことも増えたけど、たまにはこういうのも楽しいな。誘ってみると意外に「テメーの奢りだろうな?」とヴィランのような笑顔で詰めてくるのだ。好き嫌いせず、いろんな人と関りを持ちたい。そう思わせてくれたうちの一人が勝己だなんてなんだか癪だけど。林間合宿も何事もなく楽しめるといいなあなんて、まだ見ぬ未来のことを考えた。




20220601