きみの手で愛を授けて


「焦凍くんってホンット物好き」



そう言えば、目の前の彼は「?何がだ」と目を丸くして返事をした。寮のソファで隣り合わせに座って、わいわいと騒ぐみんなを遠巻きに眺めながらぼーっと考え事をしていた。
焦凍くんとお付き合いというものを始めて早3か月。焦凍くんは以前よりもさらに露骨に愛情表現をするようになったと思う。(さすがに人前ではやめてほしいと言ったけど)大好きな相手から好きで好きでたまらないといった表情を向けられるのはやはり嬉しいものだ。




「やっぱり焦凍くんが私のこと好きっていうのが不思議」
「…そうか?俺はずっとあきらだけだったから、よく分からない」
「……そういうとこほんとずるい」



焦凍くんから告白されたのは、高校生になってからだった。1年生の頃、ヴィランに立ち向かって怪我をしたことがあった。中学の頃からずっと好きだったと、わたしを失うのが怖くなったから、伝えられるうちに伝えたかったと彼は言っていた。まさか焦凍くんが自分のことを好きだなんて微塵も思っていなかったわたしはすぐに返事を出せなかった。けれど、返事はいらないと言った彼に対して、それはあまりにも非常識ではと考えたのだ。ゆっくりしっかり考えて、結局返事をする頃には半年が経っていた。それでも彼は、心の底から嬉しそうにわたしの告白を受け止めてくれたのだった。



「…俺からしたら、あきらのほうが物好きだと思う」
「えっなんで!?」
「俺はあんまり愛想も良くねえし、気が遣える方でもねえからな」
「うーんでも、」



私は焦凍くんのそういうところも含めて好き。何も話したりとかしなくてもお互いの気持ちが分かったりとか、そういうのが自然に出来るのは焦凍くんだけだなって思うよ。そう伝えて彼の方をちらりと見れば、真っ赤になって口を一文字に結んでこちらを見ていた。ああ、本当に感情を表現するのが上手になったなあなんて、もう長い付き合いになる彼の表情を眺めてにこりと笑う。



「………お前の方がずるいだろ」



そう言って腕を引かれ、そのままぽすりと焦凍くんの腕の中へ収まる。ああ、みんながいるところではやめてって言ったのに。結構こういうところは強引で、ここがリビングだろうが外だろうが、きっと彼にはどうでもいいことなんだろう。わたしの肩に顔を埋めてぎゅうぎゅう抱きしめてくる彼が愛おしくて、ゆっくりと焦凍くんの背中をさすればまたもっと深く顔を沈めてくるのだった。




20220615 高2くらいの話