めでたしめでたし、のその後で


「あ、焦凍くん!こっちこっち!」
「悪ぃ、待たせたか?」
「スゲーーー待った」
「うそうそ、わたしたちもさっき集合したばっかだよ!」



そう言って爆豪の二の腕あたりをグーで軽く殴るあきらを見て軽く笑う。卒業してプロヒーローになってから、3年経った。俺もあきらも爆豪もそれぞれ別の事務所に所属しているし(親父はずっとあきらのことを引き抜きたいと狙っているようだが)、かなり忙しくしていてあまり会える時間も取れなくなってしまった。現場で会うことはあっても、時間がなく世間話程度で終わってしまう。久しぶりに会いたいと言い出したのはあきらで、3人で有給を取って予定を合わせたのだった。



「楽しみだね!久しぶりに3人だし!」
「俺は2人でもいい」
「ア?舐めとんか」
「こらこら勝己落ち着いて」



あきらと2人で会うことはあっても、爆豪も交えて3人でというのは珍しい。(爆豪もきっと、あきらと2人では会ったりしているんだろうと考えたらモヤモヤした)予約していた居酒屋で乾杯をした俺たちは、最近あった事件のことだとか、一緒に働いているヒーローたち、A組のみんなの話をして盛り上がる。そうしてビール5杯目が空になりそうな時、ふと あきらが「引っ越したいんだぁ」と零した。スマートフォンで地図アプリを出して、俺たちに見せる。



「この辺りに住みたいんだけどね、やっぱり立地がいいから家賃高くて…事務所から近いし悩んでるんだけど」
「…俺もそのへんに住みてぇ、今のとこよりそっちの方が俺も事務所が近い」
「俺、今度そのへん引越そうと思ってる まだ家決めてないけどな」
「「は?」」



二人で爆豪をじいっと見つめていると、「ア?んだよ、ウゼエ」と虫を払うような手ぶりをした。爆豪の顔はお酒が入ってほんのり赤い。ちょうど引っ越したいと思っていた場所に目の前の男が引っ越すと聞いて、黙っているあきらではない。彼女は恨めしそうに爆豪の顔を見つめ、ため息をついた。



「いいないいないいな〜」
「……」
「勝己は人気ヒーローだもんね…」
「テメーもそこそこだろ、俺には敵わねェけど」
「あきらもだいぶ活躍してるよな」
「焦凍くんも引越そうと思えばすぐ引っ越せそう…」
「(否定できねえ)」
「ハァ…絶対遊びにいくからね!」



そう言ったあきらの言葉に、俺と爆豪の表情が同時に固まったような気がした。爆豪の部屋に遊びに行くということは、二人きりになるということだ。あきらはそういうの、分かって言ってるんだろうか。もちろんあきらは、俺たち二人ともが恋愛感情を持っていることを知らない。おそらく軽い気持ちで言ったのだと思うが、好きなヤツが他の男と一緒にいるなんて考えたくない。



「それはいいけどよ…」
「あきらが行くときは俺も行く」
「オイなんでテメーが来んだよ!!!邪魔だわ!!!」
「ダメなのか?」
「あ、3人でお泊まり会やろ!勝己の家で宅飲みとか!」
「いいなそれ」
「あ〜〜〜ウッゼ!!だったらもう一緒に住みゃいいだろうがよ!!」
「「……」」



沈黙もつかの間、あきらをちらりと見れば「その手があったか!ね、3人で住もうよ!」と声を上げて俺たちの手を取った。手を取られた俺と爆豪は二人して間抜けな顔をしていたと思う。すこし考え、もう一度「いいなそれ」と口にすればあきらは嬉しそうに何度も頷いた。再び先ほどと同じようにあきらと二人で爆豪を見れば、観念したように「〜〜〜ッ、わぁったよ!さっさと家見つけんぞ!」と言って机をダンと叩く。



「楽しみだな〜!不動産に問い合わせてみよっと!」
「ああ、お前らとなら気遣わなくて済みそうだ」
「るっせーわ、あきらはまだしもテメーが邪魔だ」
「2人にさせるわけないだろ」
「アァ!?!」
「まあまあ二人とも、3人暮らしを祝ってもっかい乾杯しよ!かんぱーい!!」



あきらの掛け声とともに残り少なくなったグラスを合わせ、俺たちの同居計画はスタートしたのだった。




20220623