もう逃がしてあげられない


「つーかお前、本当に俺らと同居とか大丈夫かよ」



目の前で楽しそうに賃貸情報を漁るあきらにそう投げかける。ノリで決まってしまった3人同居の話は着々と進み、賃貸情報のサイトで3か所程度に絞ったところだった。なかなか3人揃う時間もないが、進まないよりはマシだ。それに、俺たち全員が早く引っ越しをしたいと切に願っている。あきらはといえば、俺の問いかけにキョトンとしてこちらを見ていた。



「え?大丈夫だよ!ふたりになら別にすっぴんくらいみられても平気だし」
「そうじゃねえだろ!!!」
「ええ…」
「お前も分かってんだろうが…高校の時の寮とは違ェんだぞ」



俺は真面目に聞いてんだよ、クソが。そういう気持ちを含んだように言えば、考えるようにしばらく黙っていたあきらは「一人よりは良い気がしたんだよね」とぽつりと呟いた。



「一人暮らしってしたことなかったけど、やっぱり誰かが家で出迎えてくれるっていいなあって思ったの」
「……」
「仕事柄、家にいないことも多いでしょ?寝るだけの場所になっちゃうけど、それでも、誰かがいてくれるって思えばそこが帰る場所になるし」



そういう場所があるってだけでモチベーションが違うんだよね、と笑うあきら。その表情がなんとなく、高校の頃みたいな幼い顔に見えて目をこする。確かに、プロヒーローになってからというもの家に帰る頻度が減ったように思う。拠点は今いる地域にあるが、要請があれば遠方へも向かう。それは全員同じ。ただ、家に帰っても誰もいない真っ暗な部屋を見るたびに、"自分の家に帰ってきた"という感覚はあまりないのが現状だ。きっとあきらは、ソレを言いたいのだろう。



「まあ…そうだな」
「ちゃんと分かってるよ、寮の頃とは違うことくらい」
「分かってんならいんだよ」
「もちろん誰かに恋人ができたら同居解消するし」
「ハァ?」
「勝己も焦凍くんも彼女できるかもでしょ?」
「できねェよ」
「うそ」
「ぜってーできねェ」



お前が誰ともくっつかないうちは、と心の中で呟く。その一言を添えれば、俺と轟の気持ちはこいつに届いただろうか。ここにいない轟のことを思い浮かべ、すぐに脳内から消した。間抜け面してこちらを眺めるあきらの額にひとつデコピンをかますと、「いった!何!?」と声を上げた。
同居なんてただの通過点にすぎない、俺があきらを掻っ攫う。俺も轟も、もう何年もこいつに振り回されてんだ。これからまた何年だって、振り回される覚悟はできているのだ。




20220701