心の切れ端を捕まえて


「好きだ」



勝己からそう言われて「……へ?」という間抜けな声しか出せなかった自分を怒りたい。
その間抜けな返事にキレ散らかすかと思ったけれど、爆豪勝己は何も言わず目の前で気まずそうに目を逸らした。なんでこのタイミングなんだろう。お風呂上がりに外の風に当たりたいなあと思い、コンビニにアイスでも買いに行こうかと思ったところで勝己に声をかけられた。そうして一緒にコンビニまで行き、アイスを食べながら寮まで帰っている途中で冒頭の言葉を伝えられたのだった。


「…ごめん、勝己のことそういう風に見たことがなくて、」



正直なところ、彼の気持ちにひとつも気づかなかったといえば嘘になる。なんとなく口調が柔らかかったりだとか、何か困ったことがあると最近は焦凍くんよりも早く手助けに来てくれる。A組のみんなからも「猛獣使い」と呼ばれるくらいには勝己のストッパー役として行動していたところもある。それくらい、彼とは仲が良いと思っている。ただ、恋愛対象としてみたことはなかった。A組のみんなと同じ、ヒーローを目指す仲間で、今となっては家族と同じくらい大切な存在でもある。素直な気持ちを伝えたくてちらりと彼の方を見れば、顔にはいつもの覇気はなく、下がった眉に胸のあたりが苦しくなった。



「…そうかよ」
「でも、大事な仲間だとは思ってるよ」
「………他に好きなヤツでもいんのかよ」



まっすぐとわたしの顔を見て問いかけられたその言葉に、いないけど と小さく返す。あまりにも真剣な顔で見てくるもんだから、すこしだけドキリと心臓が跳ねた。今はヒーローになるための勉強や実践が忙しくて、誰かと付き合ったりとかそういうことを考えられる余裕はない。きっと誰かと付き合ったとしても、相手のことを蔑ろにしてしまう気がするから。今のところ、誰のことも好きになる予定はないのだ。そう考えているのが伝わったのか、勝己はいつも通り目をきゅっと吊り上げてわたしの頭をわしわしと撫でる。突然詰められた距離に驚いていると、彼は確認するように言葉を紡ぐ。



「本当にいねぇのかよ(轟でもねぇのか)」
「い、いないってば」
「……ぜってー好きにさすわクソが」



自信たっぷりにそう宣戦布告した彼の「見てろよ」と言わんばかりの表情に惚けていると、先ほどまでわたしの頭を撫でていた手がわたしの手をとった。彼の手のひらはじんわりと汗をかいていて、暑かったのかはたまた緊張のせいかも分からないけれど、なんだか可愛くて寮に着くまでずっと繋いだまま過ごした。もう片方の手に持っていたアイスはもうだいぶ溶けていて、寮に着くまでに慌てて食べたのだった。




20220628 2年生の夏くらい