触れてなぞって


視界の端でゆらゆらと揺れる彼の手を取ってもいいものか。そう考えながらちらりと彼の横顔を見れば、その視線が気になったのか「ンだよ」と声をあげた。勝己と付き合うようになって何度かオフの日に出掛けたけれど、手をつなぐという行為をあまりしていないような気がする。今だって、彼の手はズボンのポケットの中に突っ込まれて息苦しそうだ。もしかして、付き合う前の方がよく繋いでいたのではないだろうか。



「言いてぇことあるならハッキリ言えや」
「…いや、手とか繋がないのかな〜と思って」
「……繋ぎてぇんか」
「な、なんかそう言われると恥ずかしいんだけど!」



はいそうです!なんて言った日には恥ずかしくて勝己の顔が見れないかもしれない。そりゃあこっちが勝手に意地を張って付き合い始めるのが今頃になってしまったわけだし、お互いに初めての彼氏彼女というやつだ。気恥ずかしいに決まってる。男の人にそこまで免疫があるわけでもないし、高校生の頃なんて常にヒーローになるための勉強ばかりで、恋愛どころではなかったのだから。するとわたしが口ごもっているのを見た勝己が、そうっとわたしの手を握った。手のひらが少し汗ばんでいて、初めて告白されたあの日と同じだなあと少しだけ笑みがこぼれる。



「やっぱり勝己って手大きいね」
「普通だろ」
「大きいよ、男の人だなって思う」
「まあ、あきらよりは身長もでかいしな」
「話し方とかもね、高校の頃と比べると落ち着いたし」
「…まあな」
「大きくなったね〜かっちゃん?」
「うるせえ!!!」



かっちゃん呼びがお気に召さなかったのか、思い切り力強く手を握る勝己に思わず「いっっっっっった!!!!」と悲鳴をあげて手を振りほどく。通行人の皆さんにちらちらと見られている気がしたが、それもすぐ忘れるくらいの痛さだ。(だけどどうかダイナマイトとアクアショットだとバレていませんように)(ヒーロー同士の恋愛だし、なんとなく隠してしまう)涙目で「かつきのばか!」と声を荒げると、口をへの字に曲げる勝己。



「テメーが黙らねえからだろうが!!」
「彼女にやることじゃないでしょ!?!」
「………」
「……ね、まさか"彼女"っていうの嬉しかった?」



そういたずらっぽく笑みを浮かべて揶揄えば、勝己は「ウルセーこっち見んじゃねぇ!」ともう一度わたしの手を取り歩き始める。その姿がかわいくて、くすりと笑って彼のごつごつした大きな手を握り返したのだった。




20220630