まだまだ未完の恋なので

わたしが勝己の部屋を訪れたのは23時を過ぎたころ。早寝早起きを習慣づけている彼のことだから、もう寝てしまったかと思っていたけれど、「仁科だけど」と言えば扉はすぐに開いた。



「何か用かよ」
「ちょっと寝られなくて」
「……入れや」



頷いて彼の部屋に入り、いつもの場所に腰かける。眠れないときは頻繁にここへ来るようになってしまったわたしに、勝己は毎回なにも言わずにおしゃべりに付き合ってくれる。ただの世間話だけど、時にはすこしだけ口角を上げてくれるのが好きだった。



「(黙っていればかっこいいのになあ)」



なんてことは、なにも今日初めて思うことではない。何度も彼のかっこいいところを見てきたし、彼のカッコ悪いところも山ほど見た。(先生たちにコテンパンにやられる姿なんて、きっと授業中でしか見られない)こうして部屋にくるのが当たり前になるまでは、勝己の顔を静かにじっくりと眺めることなんてあっただろうか。
困っているのは、普段とは違う彼の一面を見るたびにドキドキしてしまうということ。自分でも、この気持ちがなんなのか気付いてるし、周りのみんなには絶対に気付かれたくないとさえ思っている。色々なことがあったのだ、わたしは彼の足手まといに、重荷になりたくはない。
勝己のことをチラリと盗み見れば、その視線に気づいたのか「んだよ」と不機嫌そうに言う。そんな仕草でさえわたしの心臓を掴む。



「なんでもな〜い」
「あ?今見てただろ俺のこと」
「見てたのは認めるけど、特に用事はないよ」
「ハァ?」



心底「わけがわからない」という彼の表情は何度も見た。種類はたくさんあるけれど。
こうしてひとつひとつの表情を眺めることができるのは、あと何回あるだろうか。ヒーローという特殊な仕事に就こうとしているわたしたちは、きっと卒業後はバラバラになってしまう。いつどこで大切な人を亡くすか分からない。現に、1年生の時の出来事は記憶に新しく、今思い出しても胸がぎゅうっと苦しくなる。あの時ほど、大切な誰かを失うことが現実なのだと思い知らされたことはないし、これからもないことを願う。



「あ、」
「今度はなんだよ」
「日付変わった」
「……」
「誕生日、おめでとう勝己」
「……何泣いてんだテメーは」



そう言いながらわたしの涙を拭う、ちょっと困ったような照れ笑いも大好きだってこと、今はまだ教えてあげない。




20230420