御機嫌なハミング

「とりあえず、保健室行くか」
「え、大丈夫だよ!」
「結構派手に当たっただろ…」
「まあね…」



彼の眉間のしわは深まるばかりで、どうしたんだろうと思っていた矢先の提案だった。確かに思い切り当たったし、ずっとズキズキと痛むそこは少しずつ膨れ上がっているような気さえする。触ると痛いし、やっぱりたんこぶくらいにはなっているのかもしれない。眉を下げて患部を撫でるわたしを見て、轟くんが「……っふ、」と少しだけ笑い声のようなものをこぼす。



「ちょっとなんか笑ってない…?」
「笑ってねえよ」
「いや絶対笑ってたよ今!」
「ちょっと思い出しただけだろ」
「た、助けたのにひどい…!」



わたしが止めてなきゃ轟くんだって今頃びしゃびしゃだったんだよ!と声を荒げれば、「わりィ」と心のこもってなさそうな淡々とした言葉が返ってきた。確かにギャグアニメみたいな当たり方ではあったけど、そんなに笑わなくてもいいじゃん。
保健室に着いて先生に診てもらい、手渡された氷嚢を頭に当てる。(保健の先生から「災難だったねえ」と笑われてしまった)氷嚢を当てたそこは冷たくて気持ち良い。ふう、と一息つけばなんだかんだで保健室まで一緒についてきてくれた轟くんがこちらをじいっと見ていた。



「あ、ごめんね付き合わせちゃって」
「別に…元はといえば俺がわりィんだし」
「え?轟くん何も悪くないよ、わたしが勝手に…」
「あいつら、俺のこと狙ってたんだろ」
「……狙ってたとか、よくわからないけど」



「轟くんが無事ならそれでいいよ」と笑えば、納得がいかないというような表情をする轟くん。わたしは轟くんのことをまだよく知らないし、それでも、これから知ってみたいなあと思うのだ。きっと彼は不器用で、人よりも少し感情の表現が苦手なだけなのだろう。エンデヴァーがどうとか、周りの人の反応がどうかなんて関係ない。轟焦凍という人と仲良くなりたいと思った。



「轟くんって結構話しやすいんだね」
「は?」
「これからもたくさん話しかけても良い?」
「…別に、好きにしたらいいんじゃねぇか」



どんな言葉を返せばいいのか分からないのであろう轟くんは、わたしの言葉に目をまんまるにしていた。少し戸惑った表情だったけれど、先ほど助けたときのまんまるとはまた違う驚きの表情みたい。それでも「俺と仲良くなりてぇとか、そんなこと言われたことねぇよ」と言う轟くんは、すこしだけ嬉しそうに見えた。




20220525