指先まであつい


あれからというものの、轟くんとお話する機会が増えた。今まではほとんど話さなかった彼との会話は新鮮なものばかりで、なかなか楽しい。友達からは「あきらって轟くんと話せてすごいね」と言われることもあるけど、話してみると優しくていい人だというのが分かる。

轟くんは思ったよりはっきりと自分の意見を言う人で、思ったよりも天然で可愛い。あとは聞き上手であるということ。わたしがひたすら話をしていても、うんうんと頷いて、心地の良いタイミングで返事をしてくれる。なんだか轟くんとの会話には癒しの効果があるんじゃないかと錯覚するほど。クールな人だと思ってたけど、案外表情も変わるし、やわらかくて話しやすい人なのだ。今だって、駅のホームで轟くんに声をかけたわたしを驚いた顔で見ている。



「仁科…同じ電車だったのか」
「わたしは知ってたもん」
「声かけりゃいいのに」
「だってそんなに話したことなかったし」
「…まあ、そりゃそうか」



電車が到着して乗り込んだはいいものの、この時間は通勤や通学の人で結構混む。後から乗ってくる人にぎゅうぎゅうと押し込まれ、先に乗った轟くんにぶつかってしまった。「あぶねぇ」とこちら側を向いている轟くんに支えられる形になってしまった。轟くんの行き場のなさそうな手が少しだけわたしの背中に触れ、轟くんの体から伝わるぬくもりにひどくドキドキした。



「仁科、朝の電車苦手だって言ってたよな」
「……轟くんって、意外と話聞いてくれてるよね」
「…聞いてないと思ってたのか?」
「そうじゃないけど、色々と覚えててくれるなあって」



ありがとうと顔を上げれば、思ったよりも近い距離にあったお互いの顔にびっくりして顔を背けた。電車を降りた後に轟くんは「明日は1本早くするか、仁科も」と何もなかったかのように話しかけてくる。男子とあんなに距離が近づいたのなんて初めてだったけど、ドキドキとしたのはわたしだけだったのだろうか。轟くんのきれいな顔が近くにあったことを思い出して赤面する。やっぱり、轟くんとの空間は居心地(というか心臓に)わるい。




20220526