青春落日を覚えず


2年生になってから、轟くんはさらに人気が増した気がする。もちろん、女子からの。後輩の女の子にもすごく人気があるらしいし、轟くんの姿を見てはきゃあきゃあとはしゃぐ女の子たちを見かけることも増えた。まあそりゃあそうだろうなあ、轟くんかっこいいもん。目の前で口をもぐもぐとさせながらお弁当を食べる彼をじっと見つめる。轟くんと一緒にお昼ご飯を食べるようになってから、もうそろそろ1年が経つんだなあ。お姉さんが作ってくれているというそのお弁当はとってもおいしそうで、おかずの交換はもはや定番となっている。(今日もお姉さんお手製の卵焼きをいただいてしまった)(相変わらずとてもおいしい)わたしたちがこうしてお弁当を食べているのを見た通りすがりの女子だって、轟くんのことをちらりと見ては去って行くのだからすごいなあと思う。



「ね、轟くんって彼女いるの?」
「……」
「あっゴメン、あんまり好きな話じゃないよね」
「いや…そんなこと聞いてどうするんだ?」
「ん?ただ単に気になっただけ!」
「…いねぇよ、俺は女子に怖がられてるからな」
「えっ」
「?」
「(モテてる自覚ないんだ…)」



まさか、モテている自覚がないなんて思わなかった。確かに最初の方はわたしもあんまり喋らなさそうな人だなとは思ってたけど。告白されているところはさすがに見たことないけど、轟くんが絶大な人気を誇っているのは知っている。そんな轟くんとほぼ毎日ご飯を一緒に食べているわたしが、女の子たちからどんな目で見られているかも知っている。友達からは「早く轟くんと付き合っちゃいなよ!」なんて言われるけれど、お互いにそういう気持ちで一緒にいるのではない。彼は大事なお友達だ。轟くんは少し考えたような顔をした後、「というかそもそも彼女がいたらこうして仁科と飯食ってねえよ」と呟いた。



「ふは、それもそうか」
「なあ仁科」
「ん?」
「俺ってそんなに怖いか?」
「わたしはそんなこと思ったことないけど…(最初以外は)」
「…そうか」
「っていうか、轟くんがニコニコしてる方が逆に怖いっていうか…」
「…ふ、確かにそうだな」



あ、轟くんが笑った。去年の今頃と比べたら、轟くんはわたしの前でよく笑うようになったと思う。あまり人には見せない笑顔をわたしの前では簡単に見せてくれる轟くん。ちょっと、嬉しかったりして。轟くんがだれか特定の人と一緒にいることなんてあまり見かけないから、なんとなくそういう顔をよく見ることができるのはわたしだけなのかもと思っていたけれど。1年一緒にいると、轟くんも気持ちが緩んじゃうのかなあと考えてふふふと笑う。



「?どうかしたか」
「えっ!?いや、なんでも、ない…」
「…?……!今の、怖かったか?」
「怖いっていうか…かわいいなって、思った、かな」
「………嬉しくねぇ…」
「ぶは、!いいから!ご飯食べよ!ねっ!」
「納得いかねぇ…」




20220526