小さな世界を満たす温度


夏の暑さというものは、本当に人のやる気を奪うのが得意だと思う。わたしの個性の問題なのかは分からないけれど、気温的なカラリとした暑さや人が密集してできるような暑さはかなり苦手だ。(じめじめとした湿度の多い暑さなら水分が多い為、まだなんとか我慢できる)(自分でもおかしな体質だと思う)学校から駅に向かう道ですらあまりにも暑くて倒れそうになるほどだった。



「あっついね〜」
「夏だしな」
「もうすぐ夏休みだし、海とか行きたいなあ」
「涼しそうだな」



海の話をしたところで涼しくならないのは当たり前なんだけど、どうしても水だとかそういう冷たいものを想像してしまうのも人間の性だと思う。ああ、かき氷なんかもいいなあ…。そう考えて「かき氷たべたい…」とぽつりと零せば、隣で涼しい顔して歩いている轟くんが「かき氷ではねぇけど…」と呟き、右手からパキパキと音を立てて現れる氷。



「えっすごい!轟くん個性で氷出せるの?!」
「まあ…氷だけじゃねぇけどな」
「え?」
「半冷半燃」
「はんれい…はんねん?」
「半分冷たくて、半分熱いってことだ」
「へえ…じゃあ夏でも冬でも轟くんと一緒にいたら涼しくてあったかいんだね」



最高だ、と笑って見せれば、眉間にしわ寄せた焦凍くんから「ほんとに知らねぇんだな…うちのこと」と言葉がこぼれた。全く知らないと言えば嘘になる。だって、轟くんのお父さんはNo.2ヒーローだし、嫌でもいろいろなところで話を聞く。ただ、轟くんの口から家族の話を聞いたことはあまりないのだ。聞いてほしければ話すだろうし、まあつまりそういうことなのだろう。すこしだけ悩んで、言葉を選び取る。



「う〜ん…おうちのことはよく知らないけど」
「……」
「轟くんのことはもっと知りたいと思うよ!だからおしゃべりに付き合ってね」



そう言えば、轟くんはなんとなく苦しそうな顔で「ありがとな」と呟いた。いつか轟くんが話したいと思うまで、それまではこうしてゆったりとした時間を過ごせるだけで楽しいんだから。轟くんの手のひらで作られた氷はジワジワと熱を浴び、溶け始めていた。




20220606 1年の夏くらい