好き?まじ?なんで?



役者を辞めた。結果的に、わたしに向いてるし楽しいと感じることの方が多かったのは衣装づくりだったのだ。なんでも楽しいのが一番、常にポジティブに考えることをモットーに今までやってきた。服作りにハマったきっかけは演劇だったし、裏方の仕事もとても楽しかった。中学のころからずっと演劇に携わってきたわたしは、ついに舞台から降りることを決意し、その日のうちに役者ではなくなってしまった。
最後にやったストリートアクトは楽しくて、お客さんまで巻き込んでアドリブを利かせて、その一帯全員で楽しんだ。これが最後の演技になるのなら、と思って全力でやったけど、やっぱりわたしはこれからもサポートする側として、陰ながら演劇に携わっていきたいなあとそう感じたのだった。演技の最中、視界の端にちらりと映った仏頂面の男の子も、最後には楽しんでくれただろうか。

そうして今、わたしはMANKAIカンパニーという劇団の面接を受け、見事に合格したところである。明日からでも来てほしいということだったけど、ちょうど春組(どうやらこの劇団は春夏秋冬で団員を組み分けしているみたいだった)(まだ再始動したばかりで、春組しかメンバーはいないみたいだったけど)が稽古をしているということだったので、すこしだけ見学をさせてもらうことにした。はやく馴染めるといいなあなんて心配が、この後杞憂に終わるなんて知らないわたしは彼らと出会うのだった。監督さんがみんなを集めて、わたしのことを紹介しようと口を開いたところで、「あの時の人だ」なんて声が上がり、一人の男の子がわたしの前まで来る。



「ん…?」
「あの時の人、みつけた」
「あの時…?ええと、どこかでお会いしましたか?」
「会った」
「(お、覚えてない…こんな綺麗な子いたら絶対覚えてると思うんだけど)」
「アンタがストリートアクトやってて」
「はい」
「俺がそれを見てた」
「…はい?」
「見てた、アンタを、アンタだけを」
「ありがとうございます…?」



やばい、ちょっと理解が追い付かない。なんだろう、ストリートアクト?いつの話だろう。わたしが前の劇団をやめたのは1か月ほど前だし…。そう思っても、思い出すのは劇団員やよく来てくれていたお客さんの顔ばかりで、この綺麗な顔をした男の子は全く記憶になかった。っていうかそれ、会ったって言わないじゃん。一方的にきみがわたしのことを知ってて見ていただけでは?と思ったけれど、なんだかこの子には通用しないような気がして言うのをやめた。「やっと見つけた」なんて煌々とした瞳で見られて、何故かわたしの手をぎゅうっと握っている。稽古のあとみたいで、彼の額は少し汗ばんでいる。「あの、汗拭いたほうがいいと思いますけど…」と言えば、「心配してくれてる…?やさしい…好き」と何故かド直球で告白までされる始末。収集がつきません、監督!という気持ちで彼女を見れば、やれやれといった顔で苦笑いを零していた。「仁科あきらさん、明日から衣装スタッフとして住み込みで手伝ってくれます」そう紹介をしてくれた監督さんの顔を、彼が見たのは一瞬で、またわたしに視線を戻した。



「とりあえず、手を離そうか?えーと…」
「碓氷真澄」
「碓氷くん、あの…覚えてなかったのはごめん。これからは、仲間としてよろしくね?」
「真澄って呼んで」
「真澄?」
「そう呼んでくれたら許す」
「…真澄」
「なに、あきら」
「よ、呼び捨て……」



この子、わたしよりも年下じゃあなかろうかと思うのだけど。名前を呼び捨てにされたことよりも、突然の告白だったり、いまだに離してくれない両手だったり、彼の綺麗でやさしい表情だったり、いろいろなことが脳内を駆け巡ってぐちゃぐちゃだ。「近くで見るともっと可愛い」「寮、入るの?同じ部屋がいい」「今日はここで晩御飯食べていく?俺の隣で食べて」なんてノンストップで話しかけてくる彼の言動に茫然としながら、わたしのMANKAIカンパニーでの団員生活は始まったのであった。




(180619) ※仏頂面の男の子は言わずもがな真澄