関係もなく変わりなく



あきらの様子がおかしい。これはきっと、俺だけではなく周りのみんなも気づいていることだと思う。この春から新しい劇団に入団した彼女は、日々を楽しそうに且つ忙しそうに過ごしていた。それでも、俺と会って授業や食事に行くことも少なくなかったので、最低でも週に2度は会っているだろう。寮暮らしになっているみたいだし、その寮では一人部屋で食事つき。(彼女が今まで借りていた部屋はそのまま継続して借りてはいるが、どうやら物置と化しているらしい)なにも心配することはないはずなのだが…何故だか体調が悪そうに見えるのは気のせいではないだろう。



「…最近忙しいのか?」
「え?ああ…もう少しで公演あって、その衣装ずっと作ってて…忙しいです、ね」
「一人ってわけじゃないんだろ?」
「はい、裁縫得意な男の子がいて…その子と2人で!」
「(それでもなかなか厳しいんじゃ…)」



あきらの目の下のクマは酷いし、すこし痩せたような気もする。全力で取り組むのはいいことだが、度を過ぎれば自分の体調を崩しかねない。(あきらの場合はもう崩しているのかもしれないけど)気分転換といえど無理に食事に誘うのは良くないだろう。逆に気を遣われてしまうような気がする。あきらは観察眼が鋭いし、きっと俺がこうして心配していることも分かっているんだろう。だから、こんなにニコニコと何もないような顔で笑っていられるんだろうな。ふう、と溜息をついてなにか策がないか考える。外で食事を取るのが無理なら、俺が作ってやればいいんじゃないか?そうすれば、健康にいい食事を作ってやることもできる。食欲があるのかないのかもよく分からないけれど。



「ちゃんとご飯は食べてるか?」
「た、食べてないかも…」
「ちゃんと食べないと駄目だぞ」
「うーんでも、ご飯食べるより作業したり寝たりしたくて…」
「…ウチに来ないか?何か作るよ」
「えっ!?いや、さすがにそれは申し訳ないです…カレーがあるし…」
「カレー?」
「いや、こっちの話です」



そう言って何か思い出したような顔をして、くすりと笑うあきら。(昨日はカレーだったのか?だとすれば悪いような気もするが…)(カレーならほかの寮のみんなが食べてくれるだろう)さも今思いついたように、にこりと笑ってあきらを誘う。決して下心があるわけではない。本当に、彼女のことが心配なのだ。線がすらりと細く、華奢な背格好をした彼女。ゴツゴツとした俺とはくらべものにならないくらい、小さくて薄っぺらい。どうも俺はそういう人を見るとご飯を食べさせてやりたくなるような性格らしく、ほかの友人にも振る舞ったことが何度もある。料理をするのはとても楽しいので、全く苦じゃない。目の前にいる彼女は料理が出来ないらしいけど。



「疲れてるんだ。食べるならもっと身体に優しいものの方がいい」
「でも迷惑じゃ…」
「気にしなくていいから来い、体調これ以上崩して作業出来なくなったらどうするんだ」
「ウッ…ほんとにいいんですか?」
「はは、あきらならいつでも大歓迎だ」



そう言えば、観念したように苦笑いをしたあきら。今日の晩御飯はとびきり身体にやさしいメニューにしよう。リゾット、ミネストローネ、消化のよさそうな食べ物をぽんぽんと思い浮かべてから、「授業が終わったら正門前で」そう言ってあきらの肩をぽんと叩く。「楽しみです」なんて緩い笑顔で笑うあきらを、ひとりじめしたいなんて思うのはわがままだろうか。




(180725)