惑いにもにた恋が火をつける
午後の授業を終えて、うちに案内する。帰るまでの道筋にあるスーパーで買い物をして、家の前までたどり着いた。(今週分の食材をまとめて買ったので荷物が多くなってしまった)(あきらもビニール袋を持ちたいと言ったが、そこは女の子だしダメと言えば拗ねたような表情で唇を尖らせていたのでなんだか笑えた)鍵…そういえばポケットに入れたままだった。両手は塞がってるけれど、食材を地べたに置くわけにもいかない。どうしたもんかと頭を悩ませていれば、あきらが「どうしたんですか?」と首を傾げて聞いてきた。
「ああ…ポケットに家の鍵が入ってて」
「どっちのポケットですか?」
「右」
「右ですね…よいしょ」
「!」
そう言って左側に居たあきらは俺の後ろに回り込み、俺の右ポケットに手を突っ込んだ。なんだかくすぐったくて、びくりと震えればあきらも驚いてこちらを見上げた。「わ、すみません…臣くん両手塞がってるしつい…!」と言ってあきらは顔を真っ赤にする。自分のしたことを理解したのだろう、俺まで恥ずかしくなってきて二人してドアの前で俯いた。そもそもこのビニール袋を一瞬だけ持ってもらえば良かっただろうに。なんでこういう時にその考えが出てこなかったのか後悔した。一瞬ふわりと鼻をかすめたあきらの香りが記憶に残っていてどうしても照れてしまう。あきらにそのまま鍵を開けてもらって家に入る。「お邪魔しまーす…」と控えめに言って靴を揃えたあきら。適当に座るように促すと、ソファの端の方にゆっくりと腰かけた。それを確認してから調理に入る。あきらがそわそわとした様子でこっちを見てくるのが、まるで小動物のようだなと思い一人でくすくすと笑った。
「おいしそう…」
今にも飛びつきそうに目をらんらんと輝かせた彼女の目の前に湯気をたてている料理を並べる。どれも特製、あきらのためだけに作った料理だ。エプロンを外してあきらの横に腰かけ、ふたりで頂きますをする。なんだか夫婦のような気分だという煩悩を振り払い、一口目を頬張る。隣では感無量といったような表情でご飯を食べている彼女。嬉しそうに、楽しそうに、おいしそうに。その表情が嬉しくて、それは毎日でもご飯を作って一緒に食べたいと思えるほど。「おいしいです、臣くん!」と随分興奮したように言うから、それがおかしくて「そりゃあよかった」と返して笑った。
そこからもくもくと食べていたけれど、隣から物音がしなくなった。不思議に思って横を向けば、うとうととしているあきらがいた。ご飯を食べてそのまま眠るなんて、大きな子供だな。そう考えてくすりと笑い、あきらをベッドに運ぶ。よっぽど疲れていたんだろう、少し揺らしたくらいでは全く起きる気配もなく。無防備なその姿が可愛くて、いてもたってもいられなくなった俺は、気づけば軽く唇にキスを落としていた。何やってんだ、彼女でもなんでもない後輩の女の子に。自己嫌悪に陥ったのもつかの間、もぞりと動いた彼女に身体が跳ねる。
「んん…おみくん…」
そう言って笑っているあきら。俺の名前、言った?笑顔ということは、何かいい夢でも見ているのだろうか。どうしようもなくドキドキと胸が高鳴って、これが付き合っている彼女だとしたらきっと抑えがきかなかっただろう。参ったな…もう、どうにもできそうにない。夢でも俺の相手をしてくれているなんて、こんなに嬉しいことはない。この気持ちをいつか伝えることが出来たなら、どんな言葉で言おう。来るかもしれない未来を想像しながら、彼女の額にそっとキスをして「おやすみ」と呟いた。
(180725)