不整脈のような恋ならば



「え、臣くん?」
「あきら?何してるんだ、こんなところで」



普段にも増してまあるくした目をこちらに向ける見知った彼女。どうしてこんなところにいるのだろう。お互いにぱちぱちと瞬きをしながら見つめ合う姿は滑稽だ。
綴から頼まれて引き受けた写真撮影の依頼。それは、綴が入っているMANKAIカンパニーという劇団の宣材写真を撮ってくれというものだった。後輩からの頼みごとを快く引き受けた俺は、今日こうしてMANKAIカンパニーに自前のカメラを引っ提げてやってきたのである。ちょうど春組というチームの写真撮影を終え、一息ついたところだ。衣装もかなり作りこんであって、あきらにも見せてやりたいなと思えるほどだった。劇団の公演、あきらを誘って観に行こうか。と、いうところで話は冒頭に戻る。



「まさか、あきらがここの劇団員だったなんてな」
「いやいや、こっちからしたら臣くんがいることの方が不思議ですよ!」



そう言ってくすくすと笑うあきらの横顔を見る。ああ、あの細やかな装飾が施された衣装はあきらが作ったんだな。見せたいと思った衣装を実は本人が作っていたなんて、あきらに話せば一体どんな表情をするのだろうか。(きっと、照れたように笑うんだろうなとは思うけど)そんなことを考えていれば、先ほど写真を撮ったキャストのうちの一人がこちらに視線を寄せ、近づいてくる。



「あきら」
「どうしたの真澄」
「ここのシーンなんだけど、ちょっと観てもらいたくて」
「あ、ここか…ちょっと難しそうにやってるよねいつも」
「!そう、相談乗って」
「いいよ、ちょっと待ってね」



近づいてきた彼は、親しげな呼び方であきらの名前を呼ぶ。やっぱり、なんとなくいい気はしない。あきらは俺の方を見て「ごめんなさい、臣くん!この子の演技観ることになったのでお見送りできなくて…!」と顔の前で手を合わせ、謝ってきた。そんなことよりも俺の方をじいっと見つめてくる男の子の方が気になるのだが。俺のそんな気持ちも知らず、あきらは「また学校で〜!」と大きく手を振って、その男の子に手を引かれていた。さて、俺もせっかく本物の劇団にいるのだから見学でもして帰るか。監督さんに許可を取り、俺はゆっくりと劇場内を歩きだしたのだった。

……まいったな。そう思ってしまったのは、なにも劇場内で迷子になっただとかそんな子供じみた理由ではない。あきらが、先ほどの男の子の頭を撫で、そのすぐ後にぎゅうっと抱き着かれているところを見てしまったのである。驚いてその場をすぐに離れてしまった。あきら本人も特に嫌そうにしているわけではなかったし、もしかして付き合っているのだろうか。見た感じ高校生か?彼女よりも年下のようにも見えたけれど、撮影した時の印象では大人びたような人だったので大学生とも思える。はあ、とひとつ溜息をついた。こんなことで動揺してしまうなんて、俺はかなりあきらのことが気になっているらしい。



「(きっと付き合っているんだろうな)」



帰り道、バイクを走らせながらずっとあの二人のことを考えていた。離すもんかと言うように愛おしそうに抱き着く彼と、笑いながらも受け入れる彼女。その光景が脳裏に焼き付いて離れなかった。最終的に思ったことといえば、俺は彼女と距離を置いたほうがいいのかもしれないということだけだった。




(180808)