食う寝るところに棲む獣
あの日からというもの、彼は頻繁に連絡を寄越してくるようになった。LIMEを交換し、お互いの連絡先を登録するやいなやここぞとばかりに「今日あきらんち行ってい?」と送ってくる。多いときは週に2回、必ずごはんを食べにくるのだから、まるで気まぐれな猫のようだと思った。ほぼ家にいないこともあってか、彼には「うちに来る前は必ず連絡をするように」と言ってある。今日だって、「今日行く」とだけしっかりと連絡してくるところはかなり律儀だと思う。わたしが寮暮らしだということだけは伝えてあるけれど、カンパニーに属していることまでは言っていない。だって、興味のない話題だとつまらないと思うから。
「あ〜腹減った」
「うち来てまずソレ?」
「なんか作って」
「家で食べられないんじゃない?」
「いーよ、あきらんち泊まってく」
「も〜…わたしほんと料理得意じゃないんだけど」
「今ならなんでも食える気がする」
「へたっぴの料理でも?」
「あきらの下手くそな料理でも食える、多分」
「多分ってなによ!」
茶化してくる万里の言葉を聞き流しながら、エプロンをつけて台所に立つ。料理は正直苦手なんだけど、まあ食べてくれる人がいると思うとがんばれるもんだ。いつかちゃんと彼氏ができたりしたら、料理教室なんかに通ってみてもいいかなあとも思っているところだし、練習にはもってこいである。わたしが簡単にぱぱっとできるものを作っている間、万里が食器を並べてくれる。「あきら、これ食っていーの?」なんてこの間大学の先輩からもらったおすそ分けのお菓子を見つけるもんだから抜け目がない。そうして出来上がった料理を前に、ふたりで「いただきます」をする。なんだか不思議な感覚。
「は?練習した?」
「ナニソレ失礼な」
「いつもより美味いじゃん」
「万里ちゃん、素直においしいって言えないの〜?」
「あ〜はいはいおいしいおいしい」
ぶっきらぼうだけど、そうやって真っ直ぐに伝えてくれるところは彼の優しさだと思う。初めて出会ったあの日とはくらべものにならないくらい、わたしのことを信頼してくれていて、信用していて、ちゃんと高校生らしい無邪気な一面も見せるのだからかわいらしい。この間弟のように思っていることを伝えれば、万里は嫌そうに顔を歪めたのを思い出した。何が不満なんだと言えば、なんでもないと小さく零すもんだからそれ以上追及するのはやめた。
食器を片づけて、シャワーを浴びて、何気ない会話をしながらバラエティを見て笑って。やっていることはカンパニーのみんなと変わらないのに、ふたりきりだというだけで変に意識してしまうのだから男女というのはおそろしい。楽しそうにしている万里を横目に、来客用のふとんを敷いて、おやすみを言う。こんな女っ気のないわたしと一緒に過ごして、万里は楽しいのだろうか。そう考えていても睡魔はくるようで、わたしはすぐに深い眠りに落ちたのだった。
(180618)