シュガーボーイとスパイスガール



「あきらは自覚ない」



また何か言い出すぞ。そう思って真澄を見れば、彼はじっとりと焦がれるような視線をこちらに向けていた。今日は衣装の採寸で、稽古をしてもらいつつ別室で順番に測っているからこの部屋にはわたしと真澄のふたりきり。真澄とはここ1週間ほどしかまだ一緒に過ごしていないけれど、愛のアタックが尋常じゃない。というか、これでわたしも彼のこと好きになったら犯罪ものですから!わたし一応これでもハタチですから!(ちなみにこの発言、彼にはもう何度も言ったけれど「関係ない、あきらが俺を好きになってくれたら法律なんてどうでもいい」と返ってきたから諦めた)(彼と出会って、なんだか言うのを諦める回数が増えた気がするのは気のせいではない)「え?なんの?」ととりあえず返してあげるだけでも優しい方だと思ってほしい。



「可愛いっていう自覚」
「えっ…確かにないと思うそれは…」
「可愛い顔して、俺の気持ち弄んでる」
「そういう人聞きの悪い言い方やめて!!」
「じゃああんまり俺以外の男に近づかないで」
「いやそれは無理でしょ、仕事だもん」
「……浮気」
「だからやめてってば!!」



こうやってわたしを追い詰めるのだから、おそろしい。別になにも悪いことをしていないはずなのに、なんだか悪いことをしたような気にさせられるのだ。浮気なんて一度もしたことないのに、浮気だと咎められてしまえばしたような気になるんじゃないかと、今のわたしはそれが恐ろしい。とにもかくにも、わたしと真澄くんの間には一切恋人同士なんて関係性もなにもないのに、どうやら彼の中ではなにかそういう関係が出来上がっているらしい。実害を加えられたというわけじゃないから、まだ可愛いものなのかもしれないけど…。監督さん曰く「テキトーに流してください」らしいので聞き流すことにしている。
衣装の採寸をするためにぐいと近づいて真澄の背中に手を回せば、彼はなぜかそのままわたしのことをぎゅうっと抱きしめた。



「あの…真澄クン?」
「なに、あきら」
「動けないんですけど」
「…?あきらが抱き着いてきたから抱きしめ返しただけ」
「抱き着いてない!!ただの採寸!!」
「怒った顔も可愛い…好き…」



何言ってもだめだこりゃ。そう思って溜息をつけば、「どうしたの?」とこれまた可愛い顔で首をかしげるものだから怒る気さえもなくしてしまった。彼のこういった態度に慣れるのも時間の問題かもしれないなあ、とひとり思った。




(180619)