とんだくそったれを好きになったもんだ



つい最近、変な女と知り合った。
最初はマジで犯してやろうかと思うほど、簡単に俺を家に上げるようなバカなやつだと思った。何故か手先は器用で、手当は完璧。消毒してもらったところは比較的すぐに治ったし、そこまで痛くなかった。いつもケンカばっかりしてたし、痛みには慣れたと思っていたけど、兵頭のあのパンチは正直結構効いた。そんなところを拾ってくれた変人女は、やさしく丁寧に俺の傷を手当してくれたのだった。俺みたいなやつにやさしくするなんて、マジでおかしい女だと思った。あの夜、彼女の名前を聞かなかった後悔だけを心の端に追いやり、何もなかったかのように次の日から過ごしたわけだけど、結果的に気になって彼女の家まで行った。(結局彼女と会えたのは、少し経ってからだったけど)
そうしてこの居心地のいい場所に居ついてしまった俺のことを、彼女は追い出しもせず嫌がりもせず、生活の一部のように接してくれるのだから猶更変な女だなあと思ったのであった。


「そろそろ万里専用の鍵が要りそうなくらい来てるね…」
「あ〜まあな…嫌?」
「ううん、楽しいからいいよ。万里なら勝手に入っててもなんか違和感ないし」
「は?」
「ああ、今度からわたしがもしいなくても入ってていーよ。鍵はポストに入れておくから」
「お、おい…」



なんかそれって、彼氏みたいじゃね?そんな優越感に浸って極端に嬉しくなるなんて、以前までの俺なら絶対に考えられないことだった。合鍵もらった女子かよ、なんて自分自身にツッコミをいれながら、なんでもないような顔をして俺の買ってきたケーキを美味そうに食うあきらの表情を見る。あーあ、本気でどうかしてんな俺。ありえねえだろ、俺が一人のやつに執着するなんて。基本的に来る者拒まず去る者追わずって感じだけど、真剣に誰かと付き合ったこともねーし、面白みもあんまりなかった。ただ、なんとなくコイツとは一緒にいて落ち着くし、いくらでも一緒に居たいと思う。多分恋愛ってそういうもんなんだろうな、なんて気づいたのはつい最近のこと。「…いいのかよ」と小さく問えば、あきらは口の端っこに生クリームをつけたまま、「いいって言ってんでしょ〜!トクベツね!」と笑った。(こういうとこ、なんか子供っぽいんだよな)
クリームを指で掬ってやれば、それが当たり前かのように照れもせず「はは、ありがとう」と言った。その態度になんだかむっとして、「俺が何かするとか思わねーの?」と言えば一瞬きょとんとしたあと、声を上げる。



「は?何かするつもりなの?」
「しねーけど…」
「ふは、ウソだよ!万里はそういうことするような子じゃないでしょ」
「……子って言うな、ガキ扱いされてるみてーで嫌だ」
「はは、ゴメンゴメン!」



そう言って笑うお前は、俺の本当の気持ちにさえ気づかねえよ。「トクベツ」なんていう陳腐な言葉だけで嬉しくてニヤニヤしてしまうような俺の気持ちには。





(180619)