きみの心臓の隣に住みたい



「公演、うまくいくといいね」



そう言って笑うあきらの顔は、まさに天使。俺の好きだという気持ちばかりが先行しているような気もするけど、嫌われてなければセーフ。
そんなことを思いながら、あきらの顔をいつも通り眺めて、幸せな気分に浸る。こんな風に人を好きになったのは、監督以来。(監督には一瞬で振られた)(ひどいひと)あきらはなんだかんだで俺に甘くて、否定しながらも一緒にいてくれたりするからやっぱり好き。公演の直前にそう言われた言葉にも、彼女のやさしさを感じてうれしくなる。ひとつひとつの行動が、言葉が、すべて俺のエネルギーになっていると言っても過言ではない。



「アンタのために頑張る」
「はは、そりゃあ嬉しい」
「アンタが作ってくれた衣装、ぴったり」
「…すごく似合ってるよ、ジュリアス」
「ほんと?かっこいい?」
「うん、かっこいい」
「どこの誰よりも?俺が一番かっこいい?」
「もちろん!かっこいいよ、真澄!」



そう言って、とびっきりの笑顔を見せるもんだから、可愛くて嬉しくて今にも抱きしめたくなってしまう。でも、この公演が終わるまでは我慢するって決めた。それくらいご褒美があってもいいと思う。いつもはあんまりベタベタさせてくれないし…。こんなに好きなのに、うまく伝わらないのがもどかしい。どれだけ好きって伝えても、なかなか本気にとらえてくれない。彼女はひらりと躱すのだ。そんなとこも好き。あきらにかっこいいって言われたから、精一杯やる。そんで公演が終わったらご褒美もらう、絶対。あきらの言葉をひとつひとつ頭のなかでリフレインさせて、モチベーションを高める。もうそろそろ出番だ。



「あ、真澄!おいで」
「なに?」
「リボン曲がってる。直してあげるからジッとしてて」
「ん…」
「はい、綺麗にできた。行ってらっしゃい」



なに?新婚?そんな風に錯覚するくらい、あきらとの距離が近くて、すごくドキドキした。リボン曲がっててよかった、なんて不謹慎なことを考えて口角が上がる。あきらが衣装で入ってきてくれてよかった。あの時、俺がたまたまあきらのこと見つけていてよかった。でなければ、今頃MANKAIカンパニーにもきっといないし、俺はいつも通りの高校生活を送っていただろう。毎日が、あきらのおかげで輝いてる。俺はアンタが思ってるよりずっとずっと、アンタに夢中。



「…行ってきますのキスしていい?」
「ダメに決まってるでしょ!はいさっさと行く!」
「……」
「公演うまくいったらたくさん褒めてあげるから!」
「!行ってくる」
「はい、頑張って!」



そう言って、ポンと軽く叩かれた背中から羽が生えてきそうなくらい、身体が軽くて気持ちが高揚した。絶対絶対、成功させる。だってあきらがそれを望んでる。そんな気持ちを胸に、俺はスポットライトを浴びて舞台に一歩踏み出した。




(180619)