愛してワルツの三拍子



「俺とデートして、あきら」



そう言ってわたしの服の裾をぎゅっと掴む彼の顔は、いつも通りちょっとだけ赤みを帯びて照れたような表情をしていた。本当に顔だけならかなり綺麗なんだけど、これで突拍子もないことを普通に口に出すもんだから油断できない。わたしのことを好きらしいけれど、それもあんまり信憑性がないし。高校生の若気の至りかなあ〜なんて考えながら、「やだよ」なんていつも通り答えれば、明らかにショックを受けたような顔の真澄。



「俺公演頑張った、だからなんでもしてくれるって言った」
「言ってないんですけど…」
「たくさん褒めてくれるって…」
「褒めたじゃん!」



そう、この間終わった春組の初演。とてもいい舞台になったと、舞台そでから見ていても思った。千秋楽なんか、感極まって気付いたら泣いていた。きらきらと輝く彼らの手伝いができて、本当に良かったなあと思ったのだ。公演が終わった瞬間に抱き着いてきた真澄からはこれでもかというほどに「好き」「褒めて」という言葉を浴びた。(わたしの作った衣装でわたしの涙を拭こうとしたものだから、それだけはやめてくれと叱っておいた)なんでもしてあげる、とは言ってないけど、たまにはご褒美になにかしてあげようかなあと思い口を開く。



「デートだけでいいの?」
「えっ……その先も全部していいの?」
「嘘どこまで想像してるか分かんないけどデートだけにしよう」
「…ちぇ」
「(ほんとにどこまでもしそうで怖い)」



デートの約束を取り付けた彼はとても嬉しそうで、その笑顔を見るだけでなんとなくわたしも笑顔になった。「ねえあきら、約束して」「はいはい」なんて言葉とともに、指切りげんまんをする。真澄の熱っぽい視線を浴びながら、週末は一緒に映画を見ることになったのだった。

当日、いつもとはちょっと違う髪型にして、化粧もいつもは使わないお気に入りのブランドもののルージュをつけてみたり、服だってちょっとだけ気合を入れた。一応、"デート"なわけでしょう?ちゃんとした格好にしておかないとなんだか悪い気がして。そう思いながら寮の部屋を出れば、リビングには既に準備万端といった様子の真澄がいて、やっぱり黙ってればカッコいいのになあなんて思った。わたしの気配に気づいたのか、くるりと振り返った真澄はわたしの姿を見て一目散に駆け寄ってくる。



「どうしたの、なんかいつもと雰囲気違う…俺のためにこんなにおしゃれしてくれたの?」
「まあ…デートだから」
「……はあ好き、絶対幸せにする」
「はいはい、お待たせしてごめんね」
「つれない…」



靴を履いてカンパニーの外に出れば、すっと差し出される手。その手の意図に気づかないわたしじゃあないけれど、「なあに」と問えば「今日はデートだから」といつも以上にやさしい声色で返してくるもんだから調子が狂ってしまう。にこりと笑ってその手を取れば、真澄は心底満足げにぎゅっと手を握って隣を歩く。楽しい日になればいいな、と思ってその手を軽く握り返した。




(180620)