鯉登くんとわたしについて


はじめはそう、「なんて背伸びした高校生なんだ」と思っていた。

彼はわたしのアルバイト先であるカフェに来店したお客様だった。こじんまりしたカフェは焦げ茶を基調とした落ち着いた内装で、いわゆる『レトロ喫茶』だ。マスターが時間をかけてゆっくりと淹れるコーヒーは格別。子供はあんまりいなくて、来店されるのはお年を召されたお客様や、コーヒーが本当に好きでいらっしゃる方ばかり。そんな中で突然背の高いすらっとしたイケメンが舞い込んできたのだから、普段穏やかなマスターもぱちくりと目を瞬いていた。鯉登くんはそれほどのイケメンだった。(わたしだって驚いてカップを取りこぼしそうになった)



「いらっしゃいませ、お一人様ですか?」
「……!ひ、ひとりです」
「かしこまりました、カウンターのお席へどうぞ」



そう言ってカウンターへ促せば、少し緊張した面持ちでふかふかの椅子に腰かけた。メニューを渡せば、さっと眺めて「コーヒーを」と一言。その一言はとても滑らかに出てきたようで、もしかしたらコーヒー好きのお客様なのかも、と感じた。制服を着ていたし、年齢はわたしと同じくらいだろう。丁寧に淹れたコーヒーを差し出せば、彼はふうふうと少しだけ息を吹きかけ一口飲みこんだ。わたしはそんな鯉登くんから目が離せなかったのを覚えている。







「うんめ…やはり玲さんの淹れるコーヒーは美味しいな」



そう言って朝のコーヒーを啜る鯉登くんに、「マスター直伝だからね、そう言ってもらえて嬉しいよ」と伝えると彼もどことなく満足げな顔をした。




この下宿の住人たちはどこかおかしくて、それぞれに事情があって、それでいて愉快な人たちである。



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