前編
人は死んで、また生き返ったとしても
それはまた別の人間であり、たとえ記憶があったとしてもまた新しい人生を歩むことになるんだと思う。







「あ!おはようサッチャン!」
「おう!」


笑いながらこちらに寄ってきた、リーゼントヘアをキメたサッチは強面だが凄く話しやすくて友人が多い。大学生になった私達は所謂イツメンという名の友人であった。

2人で他愛もない話をしているとマルコがやってきて「よい、次の講義休みになったぞ」と声をかけてきてくれた。
イゾウやエースを連れてまたどこかお昼でも食べようという話になり、足を進めようとしたらサッチのポケットから音が鳴った。
サッチは首を傾げながらスマホを出して画面を見ると優しく微笑み「ワリ!さっちゃん先約があったんだったわ!おめーらで行ってきて!」とそそくさと姿を消す。

長い間つるんできたから私達はすぐわかる。こうやってサッチが消えるときは「気になる女の子」や「付き合っている彼女」が出来たときだった。


「…いつのまに」
「アイツは結構コロコロしてるだろーよい。…大丈夫か?」


マルコは表情を変えないまま私に問いかけた。私はマルコを見て笑いながら「何がだよ〜!いつものことじゃん、いーよいーよ!マルコ!私らもデートしよ!」と答えるとマルコはハァと溜息をしながら「しょうがねぇな」とスタスタといつも行っているカフェに向かって歩き出した。

マルコはいつの時も、私を妹のように甘やかして見守っていてくれる。マルコのそういうところが大好きだしいつも私を助けてくれる。
いつの日かの優しい青い炎を思い出して少し口角が緩んだ。

「変な顔してら」
「なんてことを」




***




「…オメーも可哀想な女だよい」
「うっさいなあ」
「お前いつからサッチが好きなんだ」


マルコはコーヒーを一口飲んでからサンドイッチを頬張った。この男、このあとパンケーキとビーフシチューとかも頼んでなかったか…?
やっぱ体がでかいと沢山食べるのかな、と眺めていたら「レポートしてたら朝で何も買ってなかったんだ」って、いや逆に何も食べてなかったのにそんなに食べたら胃がやられる気がするんだけど。やっぱオールのプロは違うな。

なんて考えながらメロンソーダを一口飲んで「んー」とこめかみに指を当てて答える。


「…生まれる前から…」
「半笑いで冗談かますくらい余裕かい」
「あはは!ごめんごめん!…いつだったか忘れちゃったくらい前かなあ〜」


笑いながらマルコのサンドイッチに添えてあるポテトを食べて言うとマルコは溜息をした。

数時間して、そろそろ帰るかなーとお会計戦争をしていたら(いつもマルコは全部払おうとするから必死に自分のは払わせてとせがむ私である)ブルルルと私のスマフォが鳴り、通知を見るとサッチから嬉しそうなスタンプが送られてきた。これは相手のこがとっても可愛くてたまらない時のだる絡みメッセージだ。

ハァ、と無意識に出た溜め息を吐いて既読だけつけてスマホを閉じた。
横からマルコが「サッチか?なんて?」と聞いてきたから「いつものだる絡み。あー、マルコ2件目いこ。お酒のも」というとニヤリと笑って「そうこなくっちゃな」と返してきてくれた。






ピロリン、マルコとお店を変えてお酒を飲んで雑談しているとまたサッチからメッセージがきた。「お前らまだ飲んでんの?」と。


『もう帰るよ〜』
『えっ!?そうなの!?さっちゃん寂し〜〜〜〜』
『そっちが断ったくせにい』
『マジごめんてぇ、…2軒目は空いてる?』


その返しに私は少し胸が痛んだ気がした。そのメッセージをまた既読にして私はスマホを閉まった。マルコは視線だけ私に何か訴えていたが私はそれを笑って気づかないふりをした。

帰り道、マルコは全然違う路線なのに改札まで送ってくれて手を振って別れた。鞄にしまったスマホが先程から揺れてる気がしていたけれどなんだか出る気がしなくて、ハァと何度目かわからない溜め息を吐いた。

「(…前世、って、誰が信じるんだよ)」

私は小さな頃からもう一つの人生の記憶が残っていた。ずっと。
鮮明に思い出せるそれが前世の記憶だということに気づいたのは中学生の時だった。

たまたま図書室で本を借りようとファンタジーものの棚を見ていたら出てきた分厚い本。中を見るとそれは昔々の大海賊時代の本だった。大海賊時代は何千年も前にあったと言われているもので。でも、その事について教科書は名前と大まかにしか載っていなかったし、授業でも取り上げられなかった。

「(こんな詳しく載ってる本なんてあったんだ…)」とパラパラ読んでいると出てきた白ひげ海賊団の文字。マーク。私は小さな頃から記憶にあるものと同じものだ、と思わず声が出た。慌てて口を塞いで見ると、そこに記された名前の列。

私は、周りにいる仲のいい人々が全員前世から繋がっている仲間達ということにこの時気付いた。そして、涙が溢れて、元々あった記憶と共にその時の思いもデータが溢れるように蘇ったのだ。


そう、この時代に生きた私は、サッチと恋人関係であったのだ。


サッチに愛された時間、言葉全てが溢れてきて、その本を下に落とした。胸が痛くて痛くてどうしようも出来なかった。その時の、その時代の私は、突然サッチというとても大切な人を失うからだ。

突然信じていた仲間に裏切れサッチを失った私は辛すぎて毎日を上手く生きられなかった。呼吸も出来なくて、ご飯も食べたくなくて、全てが、全てが白黒の、何も輝いて見えなくなって、


「(…海に、沈んで、)」


最期にみた海からの空はとても眩しくて、サッチの太陽みたいな笑顔が蘇ったのを思い出した。

頭に浮かぶのはその時のサッチ。そして、「だから私は、」という言葉。

前世でサッチとの関係を思い出す前に私はサッチが好きだった。小さな頃、みんなと出会って、サッチを見た瞬間にその笑顔に心が惹かれたんだ。だからだ、だから私はサッチの姿を見たら心が引き寄せられたんだ。だから、ティーチの顔を見た瞬間に訳もわからずぶん殴ってしまって未だに好きになれないんだ。


「…ハァ」


でもこんなの誰も信じてくれる訳ないよなあ、って思いながら欠伸をした。
サッチは元々前世でも女の子大好きだったし、何回もなんでサッチじゃないとダメなんだろうとか、サッチはサッチであってサッチじゃない!とかわけわからんことも思った。こんな過去に縛られて私は本当に可哀想だ、て何回も思った。

でも最近わかったのだ。
これはきっと、自分から命を落とした、自分が自分にかけた呪いなんだ。





私は、また溜息をして曲がり角を歩いた。すると視線に入るのは先程のリーゼントがなくなって髪の毛をハーフアップにしたサッチが私のドアの前でスマホを見つめてる姿。


「…なにしてるの」
「あ!おかえり〜」


ヘラリと笑うサッチが私に近寄ってきた。そして香る先程とは違う石鹸の香り。

私は思わず顔を歪めてしまった。


「え、や、…すまん」
「…!い、いや、ごめんそういうわけじゃ…!」


あはは、と無理やり笑って「で、どーしたの?そんなに飲みたかったの?」と聞くとサッチは私の顔を見て少し申し訳なさそうに「…いや、なんかちょっと、」と視線を逸らした。それに何故か胸が痛んで「…明日1限だし、サッチも運動したみたいだし、今日はゆっくり休んだら?」と声をかけるとサッチはバッとこちらを見て焦ったように「ち、違うんだよ!…いや、ちがくはないんだけどよ…、いや、その、」と私の肩を掴むから驚いて「え、なに怖い」と返すとサッチはバッと離してウワーー!と頭を抱えだした。いつもと様子を違うサッチに思わずブフッと笑い出すとサッチは目を見開いて「え?え?」と声を漏らしていた。


「もー、なんなんだよ」
「…」
「何々、1発頑張ろうとしたら振られたの?…まあ、いいや、部屋飲みしよ〜〜明日の1限は起きれたら行こうね!」


と笑って鍵を開けようと鍵穴に刺すと、後ろからサッチが「…すまん」と小さな声で言っていたのを聞こえないフリして笑って招き入れた。

小さな頃からサッチは私のことをそう言う風に思ったことがないのか、いや、無いからだと思うけど2人でいても普通にゲームするし、雑談するし、お酒を飲んでもそのまま寝て朝すっごい顔を見せても平然といるんだと思う。

とりあえず私はシャワーを浴びてリビングに戻るとサッチはソファに座ってスマホをすごい真面目な顔をして弄っていた。
フゥと息を吐いて「なーに変な顔してるの」と横に座りながら声をかけるとサッチは「うーん、」と声を漏らして私の膝で寝始めた。
ドキリとする胸を押さえて「え、なになに、お酒飲まないの?まだ残ってるんだよ?先週みんなが意味わからない量のお酒持ってきた余りが…!消費しようよ!1人じゃ飲みきれないよ!!」と揺らすと「うーん、」とサッチはまた同じ声を漏らして私のお腹に顔を埋めるようにぎゅっとし始めた。


「(こ、こんのクソリーゼント…)」


今はリーゼントじゃないけど…!
私がどんな気持ちで、とメラメラと心臓に炎を燃やし始めるとサッチはそのままボソボソと言い始めた。


「…なんかよォ…、最近ダメなんだよなあ…」
「…なにが」
「なにかが」


サッチはそのままウトウトし始めたから慌てて「こ、こら!!!!寝るならベッドで寝て!!というか離れろ変態!」と暴れるとサッチは半泣きで「うわーーん!酷い!さっちゃん悩んでるのに!慰めろよ!!!」と言ってくるからお前のせいで私だって何十年も色々と悩んでんだボケ!!!と心の中のものが口から出そうになったが押さえて自分のスマホを出してマルコに連絡をした。

すると1時間後くらいにマルコは来てくれたのか、玄関からガチャリと音がした。た、助かったと胸を下ろすとサッチがピタリと止まった。(というか1時間も駄々をこねるこのリーゼント本当に昔から変わらない)
「…なに今の音」っていうから「私の救世主」と返すとバァンッと廊下からリビングに向買うためのドアが開かれた。


「…おめー…なにしてんだよい」
「え、ま、え、マルコ…?」


呆れすぎて老けたマルコが頭を抱えて立っていてサッチは困惑と唖然が混ざったような顔で私とマルコの顔を交互に見た。
「はいはい、お迎えだよ〜〜」と声をかけるとサッチは大人しくストンと座った。何やらボーゼンとしていて私は少し違和感を持った。


「マルコごめんね…デカイ赤ちゃんがぐずり始めちゃって…」
「いや…いいんだよい…つーか、お前コイツあんまり困らせるなよ」
「あ、あぁ」


とサッチは答えたがまだ頭を回転させているようだった。本当にどうしたんだろうと「サッチ?」と顔を覗き込むとハッとしたように「な、んでもねーよ!んだよ!マルコも来たんじゃアレだな!朝まで飲もうぜ!」といつもの調子に戻った挙句「飲むんかい!」という返しをしてしまって、マルコは「…嘘だろ」とやっちまった…って顔をした。

流れでそのまま3人で酒を飲みながらドンチャンやって朝方、数時間の静けさの時にサッチは最高に楽しいって顔をしながら言った。

「なんな、おめーらと海の上で騒いで飲みてーなあ」

その言葉に私はピクリと体が揺れた。

「…」

思わず時を止めてしまったと共に違和感があったのはマルコの顔で。
私はマルコを見つめてると、目が合った。

「…マルコ、ねえ、もしかして、」と言葉を発した瞬間、サッチが横で顔を歪めていたことに私は気づかなかった。











ブラウザバックお願いします。

HOME