倉庫

ダイゴ

お互い我慢するのはやめよう、そんな約束をして一週間、わたしは我慢の限界だった。「ダイゴくん、ちょっとまって」量産品の安いカーペットに押し倒されるのは今日でもう3回目、せめて、せめてベッドに行かせてほしい。「我慢はやめようと言ったのは君なのに、そんなこと言うんだ」拗ねた顔が首元に寄せられ唇を落とす。そういう意味じゃなかったのに、わたしは甘い痺れに身を委ねながら深く息を吐いた。

ミクリ

「ミクリさんの好きな人ってだあれ?」珍しく饒舌なミクリさんが気になる人がいる事を仄めかしたから単刀直入に訊ねてしまった。わたしを見つめ返す翡翠の瞳は欠伸を噛み殺したせいか潤いに揺れている。「それってわたしの知ってる人?」長い睫毛に縁取られた瞳が僅かに大きくなる。「じゃあ今度ダイゴくんも誘って4人でご飯行こうよ」閉じた瞳から小さな雫が零れ、それを拭ったミクリさんがブルームーンを飲み干した。

ミクリ

大きな右手が大きなシュークリームを掴んでいる。片手で持ったそれは大きく開いた大きな口へと運ばれて綺麗に齧られた。口の端に付いたカスタードはシュークリームを持ったまま器用に親指で掬い取られそのままぱくりと口の中へと消えてゆく。少し行儀が悪かったかな、わたしの食い入る視線に気が付いたミクリさんが肩を竦めながら笑う。そんなことない、何とか言葉を吐き出すと目の前の唇が綺麗に弧を描いた。

ミクリ

「今日は随分ゆっくりだね」起きたわたしにミクリが微笑む。「だってエネコが……」起きようとするわたしの布団に潜り込みまだ寝てようと誘惑してきたのだ、勝てるはずがない。「おや、じゃあ明日からは彼女に任せず私が起こさないといけないかな」それもいいかな、と思ったけど寝起きの不細工な顔を見られるのは耐えられない。わたしは首を振って「自分で起きれる」と楽しそうに笑う瞳から逃げるように朝食の席に着いた。

ミクリ

私は静かに怒っていた。怒っていると自覚出来るほど頭は冴えていたがその怒りを鎮められないので相当頭にきているらしい。酔いに任せて体を寄せ、こちらがその気になったら眠る彼女にもう我慢は必要ない。肩に寄りかかって瞼を閉じる彼女を乱暴に押し倒し何事かと目を覚ましたところへ無理やりキスをした。「ミ、クリさん」何かを乞うような視線に気が付いた時、何処までも振り回される自分に気が付いた。

ダイゴ

「今日はだめ」やけに拒むと思ったらはっきりと拒否の言葉を告げられた。「いやだ」無視をして事を進めたら本気の抵抗に遭った。手を止めて顔を見詰める。「この後あの人に会うからだめ」ダイゴは痕を残すから。彼女が眉を下げてぼやく。「早く別れなよ」彼女の瞳が揺れる。「ごめん、今の忘れて」溢れる雫が零れる前にまぶたに唇を落とした。

ダイゴ

これからは謝るの禁止だから、そう言われた直後に試練がやってくる。少し肌寒いなと思っていたわたしにダイゴさんがジャケットを掛けてくれたのだ。「大丈夫です」返そうとすると「ボクが君に着ててほしいんだ」微笑みで断られる。そしてわたしの口から零れそうになる言葉は謝罪の5文字。何とか押し止めて「あ、りがとうございます」礼を声にするとよく出来ましたとその大きな手がわたしの頭をくしゃりと撫でた。

ダイゴ

待ってる、確かに彼女はそう言ったはずなのに風呂上がりのボクの目に飛び込んできたのはソファでぐっすりと眠る彼女の姿だった。務めて冷静に、けれど入念に体を洗った自分がひどく間抜けに思えてくる。「次は起こすから」夢の中まで届くといいのに、そう願いながら宣戦布告をすると眠る彼女を抱いて寝室へと向かった。

ミクリ

「これ飲んでいい?」とろんとした目が私のグラスを眺めていた。今にも眠ってしまいそうだ。私は駄目だよと返事してグラスの中のワインをごくりと飲み干す。「ミクリさんのけち」ぷくりと頬を膨らませ彼女が眠たげな瞳で睨んでみせる。そんな顔も愛らしいな、なんて思っていたら両手が伸びて頬を捉え唇を啄まれる。私の隙を突いた舌が咥内に入り込んで舌に絡みつき、そして銀の糸を垂らして離れてゆく。「おいしい」彼女は呟きながらふにゃりと笑ってそのまま目を閉じる。なんて事をしてくれるんだ、すやすやと寝入ってしまった彼女がひどく恨めしかった。

ダイゴ

たまに、碌な理由も思い付かないほど彼女を食べたくなる時がある。そんな時は向かい合って座るテーブルの下で事故を装い足を絡めにゆく。君は食事の手を止め不満そうな顔を、でも次第に頬を赤らめボクをそそる目で睨んでくる。「食事中」「ボクが食べたいのはこれじゃなくて君だよ」耳まで赤くした彼女が食器を手放す。それが“食事”の合図だった。

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