服装OK、手土産OK。ごくりと唾が勝手に飲み込まれる。いつもの50倍緊張している、今日。それもそう、のほほんな撮影ではなく国立代々木競技場でのロケ。……いやもうこれロケって言わないな!お邪魔させていただきます過ぎて! 今日は夫役、道枝さんが所属するなにわ男子でのライブツアーをこっそり見に行く、というのが本日の撮影内容。サプライズなので、もちろん彼には言っていない。ロケ車で競技場付近に来たが、会場前にも関わらず周辺はもうファンで溢れかえっていた。す、凄まじい人気…。開演は17時半、開場はその1時間前。しかし現在14時半。なんでこんなに早く来たのかと、いうと……。 「失礼します…、」 ある一室。控室と書かれたそこに、ノック3回後。カメラを引き連れ扉を開けると、なにわ男子の方が何人か準備…していた。私の訪問に、えっ?という表情をくれるのだが、もちろん演技である。 私がこの時間に来るのは、番組サイドから道枝さん以外全員事前に知らされている。ただ絵として、夫がいない間にこっそりメンバーに挨拶しにきた妻、みたいな感じが欲しいらしい。無理あるだろ。 さて。ここからどなたに話しかけたらいいのだろうと迷った瞬間、隣の部屋にいたであろうある彼と視線が合った。 「えっ名前ちゃん!?うわー来てくれたん?久しぶりやなぁ」 「大吾くん…!助かったーちょっと探しちゃった。」 「あっみっちーに会いに来たん?ごめんあいつ今おらんけど…」 「「「ってまてまてまて」」」 大吾くんが近寄って来てくれて、普通に会話が始まる前にストップが掛かる。そんな感じがつい関西感あって落ち着いてしまう。…が、本当に驚いて近寄って来てくれた他のメンバー方。 o「えっ大ちゃん知り合いなん!?聞いてへん!」 d「あれ?言ってへんかったっけ…この子俺の妹やねん。」 fntr「「「「は?」」」」 もう漫才みたいで面白すぎる!アハハ、とつい笑ってしまうと、可愛い…。と長尾さん?が漏れたように呟いた。すぐに藤原さん…が、心の声漏れとるわ!!ってペチッと頭叩いててそれもまた面白くって。 f「どうしてん頭おかしなったんか!?名字さんが可愛いからって…」 d「待て待て。前ドラマで共演したことって。兄妹役で」 「アハハ。そうです。あっ遅れましてすみません、初めまして名字名前と申します。いつも駿く…夫がお世話になってます。」 挨拶と共に、微笑ん(内心半ばヤケクソ)で指定された台詞を言うと。皆さん簡単に挨拶してくださって…その後覚えてますよその台詞!とでも言わんばかりに、分かりやすくも照れくさいというかむず痒いリアクションをくれた。撮影スタッフが求めていたリアクションそのものだ、なんて声が聞こえて来そうだ。 r「なぁ…。いつも夫がお世話になってますって…めっちゃ良くない?」 f「俺も思ってた。もはや俺名字さんの夫なってた今。ほんで噛み締めてた。」 o「それはあかん!みっちーのお嫁さんやねんから!…でも気持ちはめっちゃ分かるで。」 t「あいつめっちゃ羨ましい。」 n「ずっとそればっか言ってるやん。」 d「はいはいはいみなさん落ち着いてー。名前ちゃん驚いてるよー」 大吾くんの声に謝罪の言葉が四方八方から飛んできて、いやいやいや、と逆に謝る。皆さんの持ち上げ方が上手くて申し訳ないぐらいだ。ここでスタッフさんのカンペが、"西畑さん「今日は何しに来たんですか?」"。ゲストに進行させるな…? d「今日はどしたん?…て、みっちーやんな?」 「あっいや、駿くんには来ること内緒にしてて…。でも、皆さんには挨拶したくて。本番前にすみません…。」 d「……色々言いたいけど、まず言わして。駿くん呼びの破壊力ヤバない…!?」 t「もしよかったら恭くんって一度…」 f「アホか!図々しいねん俺だって呼ばれたいけど黙ってんやで!!」 r「丈くんそれもう言うてもうてるで」 o「りゅちぇ冷静につっこんだあかんよ。うん。丈くん今テンパってるから」 人気爆発中のキラキラアイドルに褒めて頂ける幸せ…。モキュメンタリーすごいわ。まだ噛み締めたい気もしたが、あんまり滞在すると申し訳ない。し、なんだか照れくさいので差し入れ(プチシュークリームたち)を大吾くんに渡して、ライブ頑張ってくださいと伝えてカメラと一緒にそそくさとその場を退出。 出たすぐの廊下で、スタッフさんと次のシーンについて軽く打ち合わせしている最中。大吾くんが控え室からひょっこり顔を出してこちらを伺っているのが見えた。 「あ、」 「あっごめんなさい邪魔しちゃいましたよね」 「いやいや全然です。少し…」 とスタッフさんを見ると、全然大丈夫ですと言ってくださった。廊下の端にずれると、(カメラ)回っていない場所で話すのが久しぶりすぎてちょっとテンション上がってしまう。 「大吾くんめっちゃ久しぶりやね!大きくなって…。」 「おかんかて!妹やーろー。…でもほんまいつぶり?」 「共演以来じゃない?2…3年前?」 「えっそんな前になる!?」 「うん多分…。でも私はテレビ越しにずっと応援してたよお兄ちゃん!」 「えーめっちゃ嬉しいこと言うてくれるやん。ありがとう妹ちゃん。」 「アハハ。でもホント、デビューおめでとう。あの時ね、初心LOVEのCD買ったから持ってきたらよかった…!」 「えっマジで!?え〜ほんまに嬉しい。あっまだ時間ある?」 「私は大丈夫やけど(ライブの)準備とか大丈夫…?」 「平気平気。ちょっと待ってて!」 颯爽と控え室に戻っていった大吾くん。勝手に時間はあると伝えてしまったが、スタッフさん怒ってはいないだろうか…?と横目でチラ見すると、全然気にしていない様子だった。時間大丈夫ですか?と訪ねると、今からロケ車に戻って私のコメントを撮った後はライブが始まるまで待機らしい。なので全然大丈夫だよと言われてほっと一息。 しかし大吾くん、何しに行ったんだろう。…流れ的に新曲のCDとかくれちゃうのかな。なんて図々しいことが脳裏に浮かぶ中、5分ぐらいして大吾くんは戻ってきた。 「待たせてごめん!これ、今回のツアーのアルバム」 「えっ」 「これ書いてもらってたらちょっと遅くなった。」 ごめんな、と笑って手渡されたアルバムにはメンバーの皆さんのサインであろうものが書かれていた。え、え〜〜!?この短時間でサイン書いてもらったの!?わざわざ!?…嬉しくて言葉に詰まってパクパクする私に、笑いながら、大吾くんは言うのだ。 「ちゃんと中身見てな!」 「えっ?」 「じゃーね。また!」 「えっ大吾くん!?」 またあっという間に去って行った大吾くんの後ろ姿に、アルバムありがとう!と叫ぶと振り返って手を振ってくれた。…なんか嵐のようだったな。でも嬉しいなー、皆さんのサイン付きなんて…!とまじまじと見つめていると、不自然にスペースが空いている。まるでそこにあったサインを消したかのような… 「……もしかして足りない?」 いや、消したんじゃなくて足りないのだ。なにわ男子は全員で7人だったと思うのだが、よく見るとサインは6つ。あっそっか、道枝さんは私が来たことを知らないから…?と頭を傾げながら、大吾くんに中身を見ろと言われたことを思い出す。何気なく開けてみると、白い紙が挟まって… 「…、……はっ?」 2022.7.29 |