恋愛ドラマに出演して、役に入りすぎてそのまま相手を本気で好きになってしまう。…タイプではなかった私ですが、どうやらそっち側の人間だったようです。マネージャーの運転する車の中でぼんやり思った。今日は一日わた婚の撮影だ。

あの日、自覚してから一週間後の本日。8話の後半〜最終話の一部を丸一日で撮影。でももう撮影も今日含めて後2回…。自然と寂しさが込み上げてくる。

もう言い訳はしない、駿くんのことが好きだ。一番そうなってはいけない相手、だけども彼の全てに魅了されてしまった。単純だな私は…。でも好きにならない選択肢は無かったと思う。車が停まる音がした。

「あっ名字さんおはようございます!」
「あっおはようございます」
「早速ですが…」

今日で最後となる、お家での撮影。スタッフさんと挨拶すると、衣装部屋に足を向ける。8話の前半は駿くんと1話を鑑賞(撮影済)、後半はその後一緒に就寝するシーン。なので現在朝だが、すっぴん風メイクをしてもらいあの日着ていたパジャマに着替えております。まあよくある話だ。

着替え後寝室に向かうと、既に駿くんがベッドの真ん中に座っていた。遮光カーテンが全閉めで、朝だとは到底思えない部屋が出来上がっている。

「あ、名前ちゃん。おはようございます。」
「おはようございます。駿くん早いね」
「もう撮影も終盤だと思うとさぁ…」
「あー分かる。寂しいよね」
「あと10話…いや20話ぐらい撮りてぇー。」

三角座りして、膝に顔を埋める駿くん。…言ってることも可愛いけどパジャマの萌え袖かわいいな!?あざといけど余裕で尊さが上回るので許します。なんて顔に出さずに、ベッドの淵に座る。

「まあまあ。今日で終わりってわけじゃないし」
「…名前ちゃん余裕やな。」
「まだ次がある!っていうので持ちこたえてます。」
「まあ確かに…。」

だから元気出して、と埋める顔をツンツンしてみる。頭皮押したら便秘になるって本当かな?でもそんな手をさらっと握られて動作が止まる。ゆっくり顔を上げて、視線がぶつかる。

「…もういっそさ、本当に結婚する?」

ぬごっ…なんてよく分からない声が、抑えきれず小さく喉から漏れる。近くにいたスタッフさんも驚いた声出てたよ!そんな甘えた表情で言うのは反則過ぎる。冗談にするように突っ込むにはいかに早く返答するかが大事なのに、つい息を飲んでしまう。でもすぐ切り替えて、掴まれた手を離してデコピンをお見舞い。

「いてっ」
「生意気小僧にはこれぐらいしないと」
「もう成人しましたー。」
「えっ?7歳なんでしょ?」
「えっなんで……」
「いじれるネタ収集は怠らないタイプなので。」

最悪や…。と項垂れる駿くんの頭を撫でて、よちよちとふざける。それを見てスタッフさんも笑ってて、やっと安心する。この場を冗談で乗り切れてよかった…。まあもちろん、彼は本気で言っているわけじゃないと思うが。周りに変な誤解を与えてもいけないし。

私達が揃ったので、プロデューサーさんと流れの確認に入る。あの鑑賞後の就寝までが一コマだが…まぁミッションがあるのでそれなりに良い感じで演じてくれとのこと。難しいな…。寝室に私達が入ってくるところからの撮影が始まる。

「…………おー。最後に来ましたよ」
「えっ?まさか?」
「(何書いてるか)見えてもた…」
「なになに」

ベッドの上に紙が一枚。先に見てしまったらしい駿くんがそれを取って淵に座る。分かりやすく頭を抱えていて面白い。でも耳が赤いので照れてるんだろうな。私も隣に腰掛けると、彼の手にあるそれを覗く。

「"夫が憧れる【夫婦といえばこの寝方】を実践してみてください"…。なるほど、駿くん宛のミッションだね」
「え〜………。えー……、」
「めっちゃ悩むやん。」

もうなんでもどんとこいすぎる私は、布団を捲ってどうしましょう?とちょっと笑いながら聞いてみる。もうエゴサした結果予想通り叩かれまくっていて傷付きすぎた結果どうにでもなれ精神なので、何も怖くありません。だって何したって言われるんだから!

「めっちゃ面白がってる……。」
「アハハ。だって駿くん顔真っ赤すぎて。」
「もぉ………。……でも、理想…あるっちゃあるんやけど…」
「ほう?」
「、でも……。…」
「?」
「………いや、何でもない。」
「?うん」

もじもじと動き出した駿くんは、まず自分が布団に入って寝転んだ。左手を伸ばして、その空間に私は入ってきてほしいとのこと。なるほど腕枕か…確かに夫婦っぽい。では…、と隣に寝転ぶと駿くんの細い二の腕が首に当たる。

見上げるとなかなかの近さですぐ俯くが、もっとこう…彼の鎖骨ぐらいに頭を乗せるとかじゃないので思ってたより遠くてホッとする。でも照れたフリは必須なのでそれなりにしている。でもなんだ、好きだと自覚後のミッションは正直どうなるかと思ったが意外と…

「…名前ちゃん」
「、え」

いけそう、と思った瞬間駿くんの左腕が私を動かして、軽く転がるように引き寄せられる。うつ伏せるように彼の鎖骨に頬が付くと、あの安心の隙間が無くなって身体全てがくっついてしまった。驚いて顔を上げると、キスしてしまいそうなぐらいの近さで秒速で俯く。

そのまま私ごと横に向くと、駿くんの右腕と右足が私を覆うようにして被さってきたのでもうほぼパニック。しかも右手は私の頭を抱くように回ってきて、驚く声も驚きすぎて空気と一体化する。だ、抱き枕にされ…っされてっ…。もう口をぱくぱくする以外できない。

「……これが、俺の理想…です。」

彼の心臓におでこが当たって、伝わる心音が速いけどそれが駿くんのなのか私のなのか分からない。こんなに密着したら、誰だってドキドキするに決まってる!私が好きだとかそんなの関係なく!…てか布団で隠れてるんだから右足の被さり要らなくない!?普通にミッション全然無理だった!意外となんて戯言すぎた。もう緊張が過ぎて何も喋らない私に、不思議に思ったのだろうか。

「……名前ちゃん?」
「…………あっ…、はい」
「アハハ。、寝たんかと思った」
「ま、まさか……。」

そんなわけあるまいと心の中では総ツッコミなのだが、どうしても言葉になってくれないようだ。ぽんぽんと頭を撫でられて、言わなくても分かるよと、密着する彼の身体から言われた気がした。私の心音が、きっと聞こえているのだろう。…これ、本当に好きだってバレたりしないかな。不安だ。不安が過ぎる…!

「……寝ます、か。」

駿くんの声に、小さく何度か頷く。私の頭を撫でていた手が、ベッドサイドの電気を消した。律儀に私の頭に戻ってきたその手は、真っ暗で何もしなくていいのに撫でてくれる。カ、カット何故かからぬ…!?何してんだヘボプロデューサー!!

その10秒後ぐらいにやっとカットが掛かって、電気が付くと同時に二人して自然と離れる。駿くんは上半身だけ起き上がった気配を感じたが、私は恥ずかしくてうつ伏せになったまま動けない。

「アハハ。名前ちゃん照れてますー。」

反論したいが顔を上げるには赤過ぎるだろう頬。が、邪魔をして動けない。悔しくてジタバタすると、よしよし。と背中をポンポンされて余計だ。

「………おぼえ、とけよぉ……。」
「アハハ!7歳やから覚えてないかも。」
「〜〜〜!」


2022.8.7
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