2022年12月XX日、23時――…。某配信番組の人気作品、シーズン4の第一話が配信される。内容としては、フィクションをドキュメンタリー風に見せる結婚モキュメンタリー。その間に恋愛ミッションが課されたりもして、それが意外と大変だったりする。1ヶ月前からその撮影に入っていた私達、は、まだ撮了していない(残り3分の1)。撮影に遅れること1ヶ月、ようやく1話が完成、放送される。

それを二人で見る、が与えられたミッション。部屋を暗くして、プロジェクターで壁いっぱいに投影すると、オープニングより先に事前に発表されていた夫婦の結婚式が映る。お二人とも私より全然有名だし美男美女。

「和装なんだぁ…綺麗…。」
「ほんまやな…。でも名前ちゃんのドレスもめっちゃ可愛かったで」
「わ。素晴らしい夫ですね」
「自慢の僕の妻です。」
「妻だそうです。」
「他人事感止めて〜〜」

少し困りながら微笑む君の方が数100倍可愛いよ。女子余裕で負けちゃうよ。なんて思うけど、今日から責められて炎上する日々が始まるのか…と内心怯えてる。だってリアコ?なファンが多いんでしょあなた。

「あ、くるんじゃない?」
「…なんかドキドキする」

少し肩をすくめる夫役の駿くんが可愛い。肩同士が触れるか触れないかの程度がまたあざとい。今時の子は怖いなぁ…と思いながら目をやると、私達の結婚式が映される。

二組目である私達の発表は放送で初解禁、いわゆるサプライズ。先に私がお披露目されて、スタジオで見てくださってるMCさん方は微妙な反応。知らないんだろうな感がひしひしと…。ただ、タキシード姿の駿くんが写ると驚いてどよめくノブさんや三浦さんの声が面白い。ジャニーズOKなの!?嘘でしょ!?って。ええ、私もそう思ってました。

「そんな驚いてくれるんや」
「いやそうだよ。かなりのサプライズだと思うよ」
「…やと嬉しいな。」

初めはその笑った顔が整いすぎて何度女を辞めたいと思ったことか。でも慣れはすごい。ここでのロケももう4…5回目?ぐらいか。ソファに二人で座る距離も、初めよりかなり近付いたと思う。ぎこちなさすぎる初対面が映ると、私達は必然的に大爆笑。

「カッチコチすぎひん!?ヤバイやん」
「駿くん固まってるやん!」
「いやいや名前ちゃんもやで!?他人感すげぇな〜〜」
「だってほんまに初めましてやったやんー」
「あっまた関西弁出てもた」
「もう今更ちゃう?」

あかんってふんわり言われたやん、と駿くんが目線で訴えてくる。前にスタッフさんに言われたことを律儀に守っているつもりらしいが、あなたほぼ関西弁でしたよ。と心の中で思う。ちらっと撮影陣の顔色を伺うと、呆れた様子でカンペにOK!と書いてある。

「やったねぇ」
「勝ち取ったな」
「ほんと標準語難しいよね」
「俺めっちゃ頑張ってるねんけど、周りに関西弁が溢れてて結局戻ってまうねん」
「それは仕方ない。許します。」
「ありがとうございます。」

するとたまに始動されるカンペ。"駿、飲み物取りに冷蔵庫に行って"。…ミッションだな。スタッフさん冷蔵庫にミッションカード入れたんだな。と認識。自然と駿くんは飲み物入れてこようか?と席を立つ。それも自然になったね…。

「あっ……。アハハハハ!え、えぇー?」
「なーにー。」
「冷蔵庫に(ミッションカード)入ってた。」
「おぉ…。なんて?」

キッチンからそれを見せてくる彼は、お茶が入ったコップをふたつ、テーブルに置くと。ポケットに入れていたミッションカードを差し出してくる。彼は焦っているのか言葉になり損ねた何かを色々喋ってる。隣に座ってもそれは同じなので、放って内容を読み上げる。

「えー、"再度、愛を確かめ合って誓いのキスをしてください。キスの方法は結婚式と同様に準備してあります"……。…お、ぉ…。」
「待って待って。…あ、この映像流れるから(もっかいやれってこと)!?」
「そうだね…。絶対そうやで……」
「映像で見て…、またやるって、……。」
「〜〜」

結婚式の時、神父さんに伏せられたミッションカードを二枚出されて、どちらか選んで書いてある方のキスの仕方を決行する…だったはずだ。あの時選んだのは、"夫が妻の手の甲にキスをする"だった。もう一枚をカメラが止まってから見たけど、たしか……、…。さ、さっき駿くんがキッチンへ席を立った時、スタッフさんが机の下に伏せられたカードを二枚置いていったのはそういうことだったらしい。

「………机の下にあるやん。」
「私見てへん。知らんよ」
「いや無理あるって」
「だって見たら(カード)選ばなあかんやん!」

なんてソファの上でジタバタしていると、顔を両手で隠す彼が見えた。…相変わらず反応が可愛い!!でもお互い駄々をこねても仕方ないので、しぶしぶ息を整える。

「結婚式の時は、私がカード選んだからさ…」
「えっ俺?いや待って、そこはあの時と一緒で名前ちゃんが選んだ方がいいって!」
「しゅーんくん。」
「名前ちゃーん…。」

うなだれる子犬の頭を撫でると、決心したらしく左のカードを選んでいる。理由は、この前名前ちゃんが右のカードを選んでいたから、らしい。かわいいが過ぎるな…。

「…いくで」
「うん」
「せーの!」

と、意気込んでめくったカードには……

「「…………」」

"夫が妻の唇の横にキスをしてください"

…二人して悶絶。そんな時に画面を見ると、タキシード姿の駿くんがド緊張丸出しで私の左手にキスをしているシーンでした。追い討ち掛けられたみたい…。

「………駿くん。」
「……はい。」
「選んじゃったね…」
「…うん。でも、」
「?」

言葉が止まったので、つられるように目線を合わせると。いつものちょっと抜けた可愛い彼ではなく、男らしさを含んだ視線が私を食べようとしている。演技とはいえこの少年すごすぎない…?

「…こっちで、よかった…」
「!」
「……とか、…うん……。」
「………っ、…」
「、名前ちゃん」

肩をやさしく掴まれて、身体が向い合わせになるように引かれる。なんか駿くんの真面目な顔にちょっとドギマギしてしまう。このモキュメンタリーの難しいところは、いかに自然に自分を演じるか、にある。素ではない、世間での"名字名前"を演じなければならない。でもそれって私であって私でなくて…、なんて難しいことを考えていると、肩に添えられていた手が背中に回る。距離でいうともう20センチもない。ただただ素の私が目を瞑った。

「……好きだよ。これからもよろしくお願いします。」

そう呟かれて唇の左隣にあの感触が降ってくる。もう心臓がバウンドしてるんじゃないかってぐらい煩い。すぐ離れていくその感触に、そっと目を開けるとまだ至近距離にいた彼と目が合う。

「〜〜〜…!」
「アハハ、顔真っ赤やで」

うるさい、と小声で呟いて俯くと、自然と抱き寄せて顔を隠してくれるこの年下の夫役…なにわ男子の道枝駿佑に、はじめて負けたような気がした。名字名前(24)、この王道アイドルと結婚モキュメンタリー出演します。


2022.7.21
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