白紙だったミッションカードの二枚目に、私の願いを書いたところでカメラが止まった。それをスタッフさんに渡すと、まず3回目のキスを怒られる。私は避けようと…。と小さく言い訳するも、不意にされたことで嬉しかった気持ちが隠し切れていなかったようで失敗。

泣き過ぎたので軽くメイク直しをしてもらい、次は先程別れた海辺に向かってくれとの指示だった。もし、私と同じ願いであれば駿くんがそこで待っているらしい。同じでなければ、彼が書いたミッションカードだけが置いてあると。


「……(駿くん)いるのかな」

撮影再開後、カメラマンさん達数名を連れて来た道を引き返す。確率的にはほぼいないであろう、彼の元へ。だって駿くんと同じ願い書くってなかなかだよ。選択肢があるわけでもないし…。…でも。正直、駿くんが書きそうなことは分かる気がした。

それに合わせていけば、彼には会える。でも、だからこそ私はそうしなかった。

「………」

そう、言われた気がしたからだ。プロデューサーに。再会を求めているわけじゃないと。少し切ない部分が欲しいのだろうな…と。その意図も何となくわかるので、私は私の本音を書いた。だから、たぶん合わない。いや、合わなくていい。

「……、…」

砂浜を歩く音が、止まる。彼がいた場所には、本人はおらずあの例のポストがあった。……そうか。…そうだよな。これで、よかったはずなのに。

「………居ない、かぁ。、」

運営側の意図に沿えたはずなのに。仕事だからそれでいいのに。…どうして胸が軋むのだろう。どうして好きを、全く消せないのだろう。ポストを開けると、ミッションカードが一枚。

取り出すと、駿くんの字。一生懸命綺麗に書いたんだろうなぁ、という頑張った字が見えた。内容は、すぐ視界がぼやけて見えなくなる。

"名前ちゃんがこの先もずっと、幸せでありますように。"

「………っ、…」

……こう書くであろう、がドンピシャで当たってしまった。嬉しくて涙が出てくるように映れば良いが、この涙は違う意味だ。これは、彼が私と共演者以上になることはない。と宣言している文だった。だってこんなに模範中の解答だから。

合わせにいけば、駿くんと夫婦としてもう一度会えた。でも、本当は…少しだけ期待していた。もしかしたら、私と同じように思ってくれていたりして…なんて。

「……駿くん、らしい、…なぁ……。」

彼のミッションカードを手に取ると、その場にしゃがみ込む。私だってあなたの幸せを願ってる。でも、それって、……隣に自分はいない前提での、願い過ぎて。合わせにいくいかないは置いといて、書けなかった。出来れば、私はずっとあなたの近くにいたかった。

でも、それが無理なのは、分かってるから。だから私は、"最後にもう一度会いたい"。ただそれだけだったのに。

「ばか………。…」

周りの大人は、きっと私の思いに気付いてる。だからこのミッションを作って、遠回しに言われてる気がした。私達にこの先は無いんだ、と……。

立ち上がって、来た道を戻る。間接的な失恋を味わったみたいだなぁ。でももう、泣かない。分かっていたことだから。それに、この1ヶ月半は本当に楽しかった。もう、それでいい。そう思うしか、ない。

曲がり角を曲がるまで歩くと、カメラから見切れるので自然と撮影が終わる。すぐメイクさんが涙の後処理をしてくれて、申し訳ない気持ちになる。…が、プロデューサーからOKの声が聞こえると、カメラマンさんやスタッフさん全員がやってくる。ついにオールアップ。切り替えなきゃ。無理矢理にでも元気に。

「私たち結婚しました、妻役の名字名前さん、オールアップですー!」
「やったーーー!ありがとうございます!」

プロデューサーさんの声に周りに頭を何度も下げる。カメラの奥で花束を持っている例の人を見つけると、もう既に笑い出してしまう関西人を止めたい。先に帰ってなかったんだ。顔がニヤけてしまいそうになる。

「早い早い」
「アハハ!だって見えてんねんもん。てか帰ってなかったんだね!」
「そんな冷たくないで俺」
「妻感激!」

そう言う私に笑いながら花束を渡して、抱き締めてくれた。鳴り止まない拍手の中、私も抱き締め返す。すぐ離れると、プロデューサーさんが花束を持っている姿に彼もここで同時アップなんだと気付く。

「そしてそして!夫役、道枝駿佑さんもオールアップですー!」
「ありがとうございます!うわ〜〜嬉しい」

花束を受け取ってそのままハグしていた。プロデューサーさんは駿くんがお気に入りだったからか、熱い抱擁だった。なんか面白い。そのまま裏方にフレームアウトして私達二人になると、駿くん、私の順で挨拶をすることに。

なんでまだ収録しているのか分からないが、私達は花束を持ったまま、カメラさんに向かう。隣に立つ駿くんをチラ見すると、少し泣きそうだった。…大丈夫かな。

「えー、一ヶ月半、全スタッフさんのおかげで本当に楽しい撮影をさせていただきました。本っ当にありがとうございます!

モキュメンタリーは僕にとって初めてで、台詞もほぼ決まっていない台本に、正直とても苦労しました。この作品をよくしたいと思う一心で色々頑張れたのは、プロデューサーさんや皆さんのお力があったからです。こんなにも最高の夫婦を作り上げられたと思います。

でも、一番感謝したいのは妻役の名前ちゃんです。名前ちゃんが、こんな僕を立派な夫にしてくれました。本当にありがとう。

また皆さんにお会いできるよう、これからも頑張ります。本当にありがとうございました…!」

深々と頭を下げると、拍手が巻き起こる。もちろん私も。微笑みながら、じゃあ次は…と振られて、私も挨拶をした。それなりのことをちゃんと喋っていたと思う。けれど、駿くんの挨拶がずっと脳裏から離れない。身体の節々が、イタイと嘆いているようだ。…分かってたのに。

「………、……駿くん、スタッフの皆さんが本当に大好きです!モキュメンタリー最高でした。皆さま本当にありがとうございました…!………」

……私今うまく喋れてる?


2022.8.14
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