「ごめんね駿くん…」
「えっなんで?謝ることちゃうよ」

ありがとう、とキッチンでわたわたする夫役を見つめながらソファで横になる。これは本日、7話の撮影する前にふらっと倒れてしまった私が原因。朝からの女子痛に耐え切れず…撮影は一時中断になったんだけど、プロデューサーの機転により看病する話にしようとなった。有難い…。

ちなみに駿くんは先程、カメラを連れて買い出しに行った。お粥を作ってくれるらしい。帰ってきたら即座に荷物を置いて、まずブランケットを持ってきてくれた。好き……。

「ちょっと待っててな、今から作るから」
「無理せんとってね、」
「はいはい。寝ててください」
「はーい…」

結構寝させてもらったからマシなんだけどな、と思いながら少しでも出しゃばれば強制送還されそうだな…と予測して目を瞑る。けれど聞こえてくるのはぎこちない包丁の音。まな板割れない…?大丈夫…?

「……駿くん」
「ん?」
「氷でも切ってるの…?」
「…え?なんで」
「すごい音してるので…」
「あっうるさかったよな、ごめん」
「いやそうじゃなくて…何切ってるのかなって単純な興味」
「?ネギやけど」
「ネギ………」

ネギであんな音出るのか…?不安から起き上がると、ピーピー!と笛の音が鳴った。え?と音の先を見ると駿くんが吹いていたようだ。おもちゃの赤い笛がまた似合う。

「なんで笛……」
「名前ちゃんが起き上がると鳴る式。」
「あぁ…」

さっき小道具漁ってたのそれか。と納得してズルズルと横になる。きっと私が心配で寄ってこないようにだね。…虫か何かか、私は。いや気遣いは嬉しいんだけども。いつもチョイス絶妙だよな、お兄さんは。小さく笑みが漏れる。

「でもさ、寝過ぎて寝れないから喋ってもいい?」
「全然…いいよ。逆に俺が、…上手く答えられないかもだけど」

ネギ切るの大変だもんね…。と心の中で慰める。ネギに苦戦して可愛いのあなたぐらいですよ本当。と思いつつ、全然いいよと答える。

「駿くんのおかげでお腹空いてきたよ。」
「えっマジ?…やる気出るわ」
「何粥の予定ですか?」
「たまご…です!」
「いいね〜」

なんて言いつつ、携帯を持った手だけ上にあげる。もちろん映すのは駿くん。ちなみに録画中だ。インスタにあげたらきっといい絵になる。…さすがに仕事中だしこれくらいしないと。

「駿くんのお昼ご飯はどうするんですか?」
「俺…、……なんやろう……」
「ん……?まさか…」
「その辺のもの…」
「アハハ。考えてなかったの?」
「ちょっと忘れてた。でも今は名前ちゃんやから…」

ネギを切る音は豪快なままだが、やさしい言葉に胸が沁みる。だんだん鍋がポコポコいっているのが聞こえてきて、お粥作りながらネギ切ってる偉さに感服。意外と出来る子なのでは…?と思い出す私。でもふと、私の携帯に気付いたようで。あっ!と見つけられて笛が鳴った。

「先生、私起き上がってません。」
「……ほんまやな。すみません取り消します」
「よしゃ。」

アハハ、と笑い合う私たち。駿くんってほんと…。とニヤけながら録画中の携帯を戻した。再生するとちゃんと撮れててまたニヤニヤ。それが聞こえていたようで、キッチンから声が飛んでくる。

「やっぱり撮ってたんやなー」
「もちろん。駿くんのレアな料理姿…!」
「ストーリーにあげんねんやろ」
「いや、投稿する。」
「ガッツリやな」

笑いながら、火を止める音と共にできた!という駿くんの声が響く。つられるように起き上がった。ソファを背に座っていると、おぼんを持った彼が来る。机に置かれて、ネギの乗ったたまご粥とご対面。見た目花丸すぎてびっくりする。

「めっちゃ美味しそう!」
「味見したけど多分大丈夫なはず…。」
「いただきます」

熱そうだったのでフーフーすると、その手を取られる。満面の笑みで奪われたれんげ。彼も息を吹きかけていて…これは、もしや。

「はい、あーん。」
「……絶対そうや思った。」
「え?ほら早く」
「……。」

頑張ってくれたので、恥じらいを押し殺して口を開ける。口に広がるたまご粥はちょうどいい塩っ気で美味しい。自然とふやける表情。

「おいしい…!」
「ほんま?よかったー」
「駿くんたまご粥専門店出せるよ。」
「専門が過ぎひん?それ」

ハハハ、と笑いながら二口目もあーんされそうになったので、しれっと奪い返して自分で食べました。お腹が喜んでいるのを感じる。幸せだ。人に作ってもらえるご飯が一番おいしい。それになにより、食べる私をニコニコ笑いながら見てくれる駿くんが愛おしい。

「駿くんも食べる?」
「俺はいいよ、見てる方が合ってる」
「…えぇ?お腹減ってないの?」
「いーの。なんか見てたいねん」
「変なの」

と言うも、なんだかんだ私も分かる気がした。食べてる方だけど、駿くんを見ていたい。…まあ、多少食べずらいが。それくらいはご愛嬌だ。

「お腹痛いの治るといいな」
「これ食べたら絶対良くなる。」
「そんなに?」
「うん。ありがとう駿くん」

微笑むと微笑み返してくれる世界線。私のために作ってくれた料理。ふんわりやさしい空間。一生忘れないなぁと思った。カットが掛かって、スタッフさん達が寄ってくる。体調を心配されるも、駿くんのたまご粥のおかげで本当に治った気がするから不思議だ。次のシーンに移るので下げられそうになったそれをしれっと引き留める。

「まだ時間あるなら食べたいです…。ダメ?」

そう言うとスタッフさんは笑いながら、まだ時間あるからいいよ、と言ってくれたので喜んで咀嚼再開。そんな私の隣にしれっと座ってきた駿くん。心配そうに顔を覗き込んできた。

「、食べ過ぎたらあかんよ」
「…?うん」

本当にお腹減ってるからなんだけど、きっと気を遣って食べようとしてるって思われてんだろうなぁと思った。そんなに気遣うとハゲちゃうよ?って喉まで出掛けて飲み込む。元気アピールをするなら…、あ。そうだ。

「もう元気だから気にしないで、迷惑かけてごめんね。」
「…ならいいけど、」
「これ食べ終わったら初心LOVEのサビ振り教えて!インスタでやろうよ」
「アハハ。いいね、そうしよっか。じゃ俺もその間になんか食べとくわ」
「コンビニでも行く?私あったかいもの飲みたいなぁって思ってたんだ」
「そうなん?じゃあ俺買ってくるわ」
「えー。元気だから一緒に行きたいー。」

なんて駄々をこねていたら、それをしれっと聞いていたプロデューサーがその普通なノリが良い。ってなってコンビニにカメラが付いてきた。普通にあーだこーだ言いながら色々買って、じゃん負けのお会計(私が負けた)、袋を半分ずつ持って帰った絵が謎にウケていた。何が良かったんだろう…?


2022.8.24
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