「……好き、とか言ったら困る?」

夜、線香花火が落ちたタイミングだった。ゆっくり見上げると、驚いた表情の名前と目が合った。もういつもみたいに冗談で誤魔化さない、と静かに息を飲んだ。すぐに彼女の線香花火が落ちると、遠い街灯の光だけが薄く俺達を照らした。


*

「……謙杜。私好きな子できた。」

大学の学食。向かいに座ってサンドイッチを食べている名前が不意に呟いた。ハァ?という表情がすぐに漏れる。お前先週振られて泣いてなかったか?と思うも、もう毎回のそれに溜息も出ない。すき焼き定食を口に放り込む。

「毎回立ち直り早いなぁ。関心するわ」
「過去は振り返らない主義なのでー」
「どの口が言うねん…。で、次誰?」
「えー。あの子。」

ほら、と小さく指を差したのは俺の斜め後ろの席で談笑している子だった。名前好みの子でしっかり納得。

「元々可愛いなあとは思っててん。でもなー、この前泣いてる時慰めてくれて」
「へぇー」
「"名字さん振る人贅沢すぎ!"って怒ってくれて」

目を輝かせて熱弁するこいつに、うんうんと頷く。ちょっと聞いてる?と言われても同じように頷いた。そんな俺にもう諦めたのか、でねー。と喋り出した。

「ハンカチ貸してくれて、飲み物くれたんよー。」
「ほぉ」
「これで惚れへんやつおらんくない。」

はぁ…好き…。とうっとりする彼女に適当に頷きながらすき焼きを頬張る。毎回好きになる理由が簡単過ぎて引く、と正直思う。それでまた振られて泣いて、俺が慰めて。何回目なのかなんて、途中で数えるのを止めた。

「望みあんの?」
「…それはこれからの私次第じゃない?」
「もうさー俺でいいやんか」
「アハハ!毎回何なん?男に興味ないわー」

何度も冗談として受け取られて、何度も流される。それでも言い続けてしまう俺こそ、一番のアホかもしれない。こいつ…名前は、小さい頃からの幼なじみで、俺の好きな人で、でも俺を絶対に好きにならない。

「友達(名前)ちゃんがいいの。今度は絶対しくじらないもんねー」

彼女は、女の子が好きだから。


愛とか恋とか/2022.8.26
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