撮影開始1ヶ月前の10月、初顔合わせが行われた。それまで本当にあのなにわ男子様が来られるのか…と疑っていたが、打ち合わせ部屋に入ってきたキラキライケメン若者を見て、現実を投げて寄越された気分だった。 打ち合わせは割とすぐ終わった。結婚モキュメンタリーの説明、ミッションがあること、台本はほぼなくスケジュール的なものしかないこと、SNSへの協力等々…。衣装の採寸が終わると、先に終えていたであろう道枝さんがディレクターさんと話していた。挨拶は初めにしたが… 「あ、お疲れ様です。終わりですか?」 「あっ道枝さん。お疲れ様です。今終わりで…もう帰りですか?」 「そうです。次があるので…」 「わあ…お忙しいですね。」 時計を見上げると時刻は20時過ぎ。やっぱり売れっ子すぎるな…。とスカスカなスケジュールに悲しくなる。そんな私に気を遣ったのか、あの、と話を変える接続詞が聞こえた。 「僕、名字さんのように演技経験が多くないので…今回足を引っ張ってしまったらすみません。」 「いやいやいや、私なんて全然…!恐縮です。そもそもモキュメンタリーって難しいですよね…。」 「ですよね。初めて聞いたときは何なんそれ?ってなりました」 「……?」 不意に出た関西弁に一瞬キョトンとしてしまう。それに気付いたのか、ごめんなさいすぐ関西弁出てきちゃって…と言われて、道枝さんが関西出身だと気付く。だって"なにわ"男子だもんな。なんで今まで忘れてたんだろ、出身一緒だってこと! 「道枝さん、私も関西出身なんです」 「…えっ!ほんまですか!?えっでもめっちゃ標準語でしたよね!?」 「死に物狂いで直したので…。でも、関西の人と話してると普通に出ちゃいますけどね。」 「う、うわぁ……!えっ知らんかったです…!嬉し…!」 「ふふ。私もです。結婚生活中は関西弁飛び交いますね」 アハハと笑っていると、ディレクターに仲良くなるのはいいけど(撮影時は)初対面感よろしくね、と釘を刺された。小声で関西弁もほどほどに。も言われてちょっとドギマギ。その後道枝さんはマネージャーさんに連れられて、挨拶をして去っていった。聞くところによるとレコーディングがあるらしい。アイドルって大変だな…。 「……いやてか、アイドル…結婚モキュメンタリー絶対ダメだと思う。」 帰りの車内でそう呟くと、マネージャーから私が聞きたかった道枝さんの出演理由が分かってしまった。 「わたこんのファンなんだって、道枝くん」 「…………それで事務所OK出すぅ?普通」 「もちろんNGだったけど、彼の粘り勝ちって。向こうのマネが頭抱えてたわ。」 「そりゃ今をときめくジャニーズアイドルが結婚モキュメンタリーって…。私がマネージャーでも絶対断るわ」 「アンタぐらいの小物タレントにはちょうどいいけどね〜。」 「あーやめて。私の何かが壊死する。てか女優な?」 「まぁ 辛辣すぎるもごもっとも過ぎて。そういえば、今日から夫婦のインスタが始まるって言ってたことを思い出す。SNS係のスタッフさんが所々写真を撮っていたのを思い出す。いかにも私達が書いた風に投稿してくれるらしい。そのインスタを覗くと、説明欄に二人のイニシャルと、私達を匂わす投稿がいくつかされていた。 「もう(出演者)予想がちらほらされてる…」 「名前って予想は?」 「ないねぇ…」 「道枝くんは噂されてたけど、さすがにないだろって言われてるみたいよ」 「そりゃ、ねぇ〜…。」 家に着くと、明日の迎えの時間を言われて解散。明日も明日でロケで雑誌の撮影だ。このいつもすぎる日々が嫌だったのにな…。来月に怯えながらソファに沈んだ。 2022.7.25 |