「あの頃から、ずっと思ってた。名字さんが俺の彼女やったらな…って」 眠らない街の電灯の下、煩い道路沿いを歩く。夏の夜の匂いが、排気ガスと相まって消えていった。ムードもへったくれもない、そんな中漏れた言葉。心音が口から漏れそうだ。彼女が今どんな表情をしてるか、誰か教えて欲しい。息だけが、透明に会話をしていた。 * 思春期の勘違い、と思うには残り過ぎた初恋。向こうも俺と同じ気持ちだったと思う。ただ俺の、勇気がなかった。そのまま別の高校に行き、そのまま大人になった。大手企業に就職し、仕事も順調、ちゃんと好きだった子もいた。 でもなぜか、所々で 「………これ俺みたいやねんけど」 昼間にたまたま付けたドラマ。何話目か分からないが、なんだか自分とそっくりな主人公だった。ただ違うとすれば、まぁ消しゴムはくれてない。そして何より、彼女にはもう付き合っている人がいた。 この前街でばったり再会した時、クサいけど運命かと思った。でも、右手の薬指の指輪を問えば、思った通りの返答。この後ご飯にでも、は言えなかった。 「……綺麗やったよなぁ、名字さん」 ベッドに寝転びながら独り呟く。中学の可愛い面影を少し残しつつ、垢抜けた綺麗さを纏っていた。そりゃ男が付かないわけがない。俺だって近くにいたら、 「、止めよ」 ……近くに居たって、中学の頃を繰り返すだけだ。あの頃踏み出せたはずなのに。恐がって何もせずに、距離のせいにした。連絡先は知っていた、だからしようと思えばできたはずだった。 もう10年も前のことを、グダグダ言い続ける俺が情けない。それほどダサいことをしてしまうのは、それほど残るまでに好きだったのだと気付いてしまった。彼女のことを。……俺だけが、あの日の感情を燻ったまま。大人になってしまった。 「…もう、遅いんかな」 気付いた勢いのまま携帯を持った手は、彼女の連絡先をタップしようとしている。いや、でも結婚しているわけではないから、ギリギリ許されるはずだ。コール音が耳元で鳴る。つられて心音が速くなって、パンクしそうだ。 電話が、取られる音がした。間に合うなら、…いや、間に合わせたい。どうしても。 「………あの、」 アイスかソルベ/2022.8.27 |