「好きになったらあかんって思えば思うほど、……無理やった。」

ソファに押し倒した彼女の頬を、やさしく撫ぜる。触れてはいけないのに、もう止められない。静まり返った部屋が、急に薄暗くなる。さっきの衝撃でリモコンを踏んだらしい。お膳立てされたかのような雰囲気ごと、もう食べてしまいたい。唇を、親指で撫ぜた。


*

「かずくんおはよー…。」
「いや、もうおはようの時間ちゃうで。」

えぇ?と笑いながら目を擦る名前。時計を指差すとその針は12時過ぎを指していて、まじか〜と呟いて彼女はそのままリビングのソファに横になった。

「えっまだ寝んの?」
「ねーへんよー…。寝過ぎたなって反省してるねん」
「それ寝てまうやつやん」
「だってお腹空いたし…」

なんて言いながら瞼が半分しか開いていない。…悔しいがかわいい。しゃーないなぁ、と呟いて自分の昼食作りを一旦ストップ。冷蔵庫の卵とウインナーをフライパンで焼きながら、この非日常にちょっと笑ったりしていた。

彼女、名前とは高校時代付き合っていた。でも別れてしまって、再会したのは社会人になってから。転職した先に彼女が働いていた。そこから仲良くなって、ある日飲みながら広い家に安く住みたいという話なり…。ノリでルームシェアする今に至る。

「ほら、名前朝ご飯」
「ふら〜…。ありがとう神さま」
「はいはい。早よ食べ」

トーストした食パンに、目玉焼き。ウインナーと気持ちのサラダを添えた。半分寝ていた目が、食べるごとに覚めていくのが微笑ましい。

「かずくんありがと。感謝永遠に」
「焼いただけやけどな」
「とても、おいしいです!」
「もう。食べながら喋りなさんな」

へへへ〜と笑う名前に思わず笑ってしまう。そんな姿を見ながら、キッチンで自分の昼食作りを再開しながら思った。住む前に決めた、"お互いに恋愛感情を持たない"。この鉄壁のルールを破らなければ、このままずっと一緒に住める。…なのに、彼女は狡い。

「あ!かずくんクイズ番組やってるよ。一緒に見よー」
「はいはい。もうちょい待ってて」
「えー。始まってるで!」
「も〜。先見ててよ」
「イヤや一緒にクイズやりたいねん」

…どうしても、好きだと思ってしまうから。


檸檬の朝/2022.8.27
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