名前あのバカが必修科目に出ていない。連絡したが未読スルーで、今まで一度もなかったそれに何かあったのかと不安になる。授業が終わって電話を掛けると、鳴り止まない呼び出し音に眉を顰めた。けれどどこからか走ってきたその姿に、溜息をつきながらすぐ電話を切った。

「何して「謙杜!私付き合えることになった!」
「……えっ?」

じゃーん!と唐突に見せられた携帯。そこには名前と、この間言っていた片思いの女の子が寄り添って写っていた。嘘付け、と咄嗟に携帯を奪い取って見るも、どうみたってあの女の子と名前。

「えマジか………。」
「まじまじー。やばない!?ついに私時代来たー!」

浮かれまくって俺の周りを飛び跳ねる名前が全力で鬱陶しい。…いや、正直難しいと思っていた。ノーマルな女の子だと聞いていたし、そんな子がこいつに感化されて付き合うなんて。…高を括っていた、のかもしれない。絶対に振られるだけだと。どうせまた、泣きながら俺の元に戻って、くると……

「おめでとうは?ねえ、おめでとうは?」
「……あー。まぁ、…すぐ別れんかったらええな」
「うわっ。捻くれ者ー」
「何とでも言え。」

そう言って携帯を返す。……でも何故か、名前の恋人に違和感を感じた。どっかで見たことあるような…。なんて思うも、どうしても思い出せない。気のせいか、それともただの嫉妬か。

「お昼行こー。恋人出来た記念に奢られてやるぞ。」
「それどんなんやねん…。俺もう帰るから」
「はっ?3限出やんの?」
「あー。眠たいから帰るわ」
「ええっ。なんて悪い子」
「2限サボったお前に言われたないわ。じゃーな」

祝えよー!と後ろ姿に叫ばれるも、振り返らずに手を振った。…いやどんな気持ちで祝うんだよ。無理に決まってんだろ。今までなんだかんだと避けてきた、名前を諦めること…を本気で考えなければならない。なのに、惚気という傷口に塩塗りたくられるようなことは悪いが避けたい。

「はー…。キツ…」

告ってもない俺が一番だっさいなぁ。と思いながら、大学の門を潜った。好きを諦めるって、どうしたらいい?もう何年好きだと思ってんだ。八つ当たりも出来ない感情が、避け続けて経験したことのないそれと相まって、自分の中で重く、深く刺さって沈んだ。


いちばん最後の音/2022.9.5
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