名前と大学で会うの気まずいな、なんて思って二週間。気まずいどころか、会いもしない。周りの友達に聞いてみても、知らない・見てないの返答。連絡しても未読スルー。でも普通に休むには長すぎる期間だ。けれど、浮かれまくっていたから彼女と一緒に引き籠もっているのだろうか?なんて大学からの帰り道、何度目かの電話を鳴らす。

「……まー、出んわな。」

もう付き合ってんだから俺が心配することない、なんて思うのにどうしても気になってしまう。…幼なじみの癖か?ハァ、と溜息を付きながら自分のアパートに着く。3階建てで、オートロック・EVも無いボロいそれが俺の家。2階まで上がって家の前が見えた時、ヒュッと息を呑んだ。

「……名前?」
「…、…遅ぇーし。」

は?と思わず漏れる声。玄関前でしゃがみ込んでいるそいつは、わざとらしく携帯を見せつけて俺からの着信を切った。近寄ると、見上げてくる目が赤みを帯びていることに気付く。

「…どした」
「あー。うん。別れたー…」
「……そ、か。…」
「謙杜をさ、好きだったみたい」
「…!」

伏せた目は、上から見ると余計腫れているのが分かる。痛んだ胸は、名前の言葉に耳が沈む。彼女に感じた違和感は、大学一回生の頃告白されたあの子だと今更気付いた。罪悪感だけが、じわじわと俺を殺す。

「会わせて欲しいって…ずっと言われてて」
「…」
「その頃から、あぁ多分私じゃないんだろうな…って気付いてたんやけど。なかなか言えんくて」
「…やから大学、来てなかったん…?」
「……だねー。大学行かないと会えへんって断ってたから。したら、振られたね」

しゃがんだまま、顔を埋めていた。くぐもった声でしか聞こえないのに、そのか細い声が泣いているように聞こえた。壊れそうな心臓を踏みつけて、目線を合わせるようにしゃがみ込む。謝罪系の言葉を必死に抑え込んだ。漏らしてしまいたいけれど、それは、俺の自己満足だ。

「…とりあえず家入れって「謙杜になりたい」
「、!」
「私、謙杜になりたいよ……。」

埋めた顔はそのままで、肩が震えていた。抱き締めたいと伸びた手は、空中分解される。…ごめん、本当にごめん。でも俺は…どうしても、この立ち位置を手放せない。叶わずともせめて近くに居させて欲しい。でもそれが名前を傷付けてしまうのなら、俺は……。


空中分解/2022.10.6
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