きたる11月上旬、撮影初日到来。初日は結婚式の撮影のため、朝7時に現場入り。緊張に食われながらも、先に準備をしていた道枝さんに挨拶。緊張が喋ってます過ぎてお互いに笑ってしまった。その後すぐにメイクに入り、着替え…。ドレスは撮影で何回も着たことがあるけども……。 「うわ〜…緊張する」 教会の扉前で、中に入る合図待ち。中ではもう神父さんと道枝さんが撮影中だ。独り言をごちるのは、カメラがもう回っているからである。少しすると、スタッフさんが扉を開けてくれた。白いタキシードの後ろ姿が見えて、背高いなぁ…とぼんやり思う。近付くと、今気付いたかのように振り向いた夫役。 「…あ、初め、まして…。道枝駿佑です。」 「初めまして、名字名前です…」 いや格好良いな!!若いな!!可愛いな!!が脳内を走り回る。身長が高くないので、見上げる形になる。するとすぐ顔を逸らして、口を隠す道枝さん。 「…?」 「……あ、いや、…すみません。可愛いな、って……。」 照れながらちょっと微笑むの止めてくれ。緊張が倍増する!てか可愛いなんて言わないで、あなたのファンが怖いよ…。とか思いつつも嬉しいのでにやけて笑ってしまう。私たち結婚しましたシリーズでは断トツで歳が若い組だから、初々しさが欲しいというディレクターの要望には応えられそうだ。 神父さんから指輪を受け取って、お互いに嵌め合う。ふふふ、と照れ笑いが止まらない。では誓いのキスですが…。と言葉を詰まらせた神父さんが、二枚のカードを差し出した。 「これって……」 「ミッション、…ですよね」 道枝さんの言葉に、そりゃそうだよなと思う。でも今までのシリーズを見たが、二枚一気に出てくることはなかった。すると、神父さんがどちらか選択してくださいと言われて、二人して納得した。カンペで、妻が選んでと指示。すかさず、 「よかったら選んでください、」 「えっ…」 「レディファーストです。」 道枝さんの自然なそれに、小さく頷いて右のカードを選択。裏向けて見ると… "夫が妻の手の甲にキスをして、愛を誓ってください" 「あっ…。」 「……ふふ、」 お互いに顔を背けて照れ合うも、ミッションは強制なので覚悟を決める。それに、これは絶対優しい方だ。ジャニーズ寄りだ!…失礼します、と左手を優しく掴まれる。 「では、誓いのキスを。」 神父さんの声に、向かい合ったまま視線が合う。一歩近寄ってきた道枝さんは、私の左手の指輪にキスを落とす。えっ手の甲じゃない…!?そのキスの仕方は酷く狡いぞ。本当に永遠の愛誓ったみたいじゃない。 あ〜〜…心臓痛い。ジャニーズさんだし、4つも下だし、本当に好きになることはないけど…。もっとちゃんと心を強く持とう。なんか持っていかれたらヤバい。ってぐらい格好良いと可愛いが混在してる。 カットが掛かって、スタッフさん達が寄ってくる。緊張がさらさら流れて、少しホッとする。次はSNS用の写真を撮るらしく、髪型やら服装を直されていると道枝さんと目が合う。 「めっちゃ緊張しましたね…。」 「ですね…。初めて誓われました。」 「僕もです。(役じゃ無くて)僕自身ですることはなかったので…。」 「あったら逆に大変ですよ。」 「あっほんまや…。」 小さく笑う道枝さんに、可愛いなぁと思える。この人のファンに嫌われるのは仕方ないから、せめて道枝さんのいいところを映してもらえるように引き立て役になれたら…!と思った。 「道枝さん。よかったら敬語…やめませんか?ここから止めておいたら、撮影中も自然に出来そうですし」 「あっ、そうですよね。ありがとうございます、僕から提案すべきだったのに…。」 「いえいえ、全然です。…だよ!」 「アハハ、無理矢理。」 道枝さんは礼儀正しい方なので、年上の私にそういう提案はしにくいだろうなぁと思っていた。でも夫役だから引っ張らないと…とも思っていたんだな、と思うと余計可愛い。なんとかやっていけそうだ、この撮影。 そんな中、スタッフさんにSNS用の写真撮ります!との声が掛かる。普通に寄り添って何枚か撮ってもらって… 「道枝さん、名字さんをバックハグ…とか」 「あっ、はい。」 これくらいは絶対あると思っていたけど。背後に回った道枝さんは、小さな声で失礼します。と言ってから、後ろから控えめに腰に手が添えられる。シャッター音が響いて、もっとガッツリ!との指示に小さく笑いながら、私の肩に顎が乗せられた。思ったより近くに来たので驚いた顔をした私に、スタッフさんも納得気味。 「次正面からお願いできますかー?」 納得してたんじゃないんかい!と心の中で思いながら、背後から消えてった道枝さんと向かい合う。抱き合う私たちを横から撮りたいらしい。顔を埋めたり、見上げてみたり、手を繋いでみたり…となかなかの枚数を撮ったと思う。 OKですーと声が掛かって、やっと通常の距離感に戻る。もー顔が熱い。道枝さんを覗くと、顔を手で仰いでいた。 「めっちゃ撮ったね。」 「ですね…、あ。いや、そやな。」 「アハハ。自然と消えてったらいいね。」 「うん。ごめん…まだ緊張しちゃって」 「私もだよ。でもめっちゃ頑張ってる。」 「えっ全然見えへん…」 「ありとあらゆる臓器が震えてる。」 「なんやそれ」 くしゃっと笑いながら、控室に戻っていく。着替えて新居に移動するらしい。左手の薬指に付けられた結婚指輪に、慣れる日は来るのだろうか…。いや来ないだろうな。とドレスを脱ぎながらぼんやり思うのであった。 2022.7.25 |