携帯を見つめては溜息、逸らしても溜息、でも気になって再度画面を見ると複雑な胸の内。ネットニュースなんていつもは見ないのに、今日に限ってなぜ見た。なぜ見つけた。

「熱愛…」

自宅のソファに項垂れるように座って漏れた言葉。光る携帯の画面には、"道枝駿佑熱愛!"が大きく表記されている。道枝さんの隣に写るのは、今ドラマで共演中の彼女。…彼曰く、直近の彼女だった人。それが本当なら、時系列が前後している。まぁあの世界ではよくある話で、相手側に情報を売られたやら関係者が漏らしたやら色々だ。

ただ、問題なのは私自身が道枝さんを信じ切れていないことである。脳裏に数日前が過った。

「……だから。これ以上私に優しくしないでください。彼女さんが悲しみます」
「あ、いやそれは違うくて」
「…?」
「あの後、彼女とは別れました。」
「、え…」
「病院に付き添ったりしてた時には、もうおらんくて」


この三年で嘘が上手くなった、と言われたら最後だが、彼の根本は変わっていないと思う。…いや、そう思いたい。自意識過剰で生きて良いのであれば、一緒に住む提案もしてくれたわけで、嘘を付くぐらいの浅い仲ではないはずだ。むしろ……

「……いや。それは都合良すぎる」

私がそうだからって、彼も同じ気持ちだなんて虫が良すぎる。放っとけなくて、近くに居てくれてるだけだ。…そう思うことで、自分が傷付くのを必死に避けている。私だってそんな根本すら変われていない。思い込めば込むほど深みに嵌る音がして目を瞑った。今日だって、勇気をくれたのは道枝さんだったのに。

*

あの後仕事に戻り、しどろもどろではあったけど、モンスターズや同僚にちゃんと説明。黙っていたことを謝罪すると、まさかのB子達からも謝罪されて驚いた。誰だって聞かれたくないことはあるよね、と言われて泣きそうになった。改心が過ぎる。仕事開始時間が迫っていた為、そこで話は打ち切られ全員で食堂に向かった。

「でもさっき助けてくれた子、絶対偽名(名字)※言い訳のみ使用さんのこと好きよねー」
「格好良かったわよねぇ。なんなら、彼氏とか?」

夕方になって仕事が一段落した時だ。A子とB子の側で仕事をし始めた私に突然振ってきたそれ。改心はどこへ?と失笑しながら内心溜息。それが表情に出ていたのか、あっ!とA子が口を押さえてやだやだ言い出した。そのまま帰ってくれ。

「私ったらもう!聞かれたくない話もあるってさっき言ったばっかりなのに!ごめんね偽名(名字)※言い訳のみ使用さん」
「あ〜本当ねぇ。つい私も乗っちゃった。ごめんなさいね、」
「…いえ、大丈夫です」
「「で?実際どうなの?」」

笑顔で迫ってきた二人に、改心が過ぎると思った私を内心殴った。でも、オバ達はすぐ、また私達ったら!と一人ボケツッコミをしていた。まぁ鬱陶しいには変わりないが、本心で存在できる息のしやすさには適わなかった。だから、道枝さんにすぐ報告したかった。あなたのおかげで頑張れましたって、生きやすくなったって。

なのに、その前に見つけてしまったネットニュース。大きな障害物が湧き出てきた気がした。

まだ付き合ってたり、するのだろうか。私にあんな優しさをくれた後、あの彼女に会っていたりするのだろうか。……

「はぁ………。」

家の天井を見上げる。うちはこんなに広かっただろうか…。なんてぼんやり思う中、思考が道枝さん渋滞のせいで家への恐怖を忘れていたことにふと気付く。

「…怖。」

そんな図太い神経だっただろうか。私。と失笑するも、私がヤバい奴なのか彼の存在が大きすぎるのか分からなくなる。でもきっと後者なのは一目瞭然で、なのに認めたくないのは…

ピンポーン…

「え?」

玄関のチャイム音につられるように身体を起こす。オートロックの音ではないそれに、首を傾げる。…あ、もしかして道枝さんか?釈明しに来てくれたのだろうか。でも連絡も無しにいきなり来るなんて今までにない。なら大吾くん…?時計を見上げると20時を指していて、絶賛撮影中だろうし絶対にない。

「えー……。」

静かに悪寒が襲う。脳裏にあの人のオカエリが勝手に再生されて、必死に首を振る。大丈夫、あの人はもうこのマンションから出禁になったはずだ。嫌に急く心臓を押し潰すように、玄関の覗き穴から外を見る。そこには見慣れた彼がいて、安堵の溜息と共に扉を開けた。

「大吾くんなんでここ…」

るん、までの言葉は咄嗟に捕まれた腕から消えた。そのまま引かれていつの間にか逞しくなった胸にぶつかる。彼に会ったら、撮影お疲れ様。久しぶりだね。色々話したいことがあるんだよ。道枝さんの熱愛報道さ…なんて言おうと思っていたのに。

「大…吾、くん……?」

驚きから見上げる前に、私の肩に彼の顔が埋められてしまう。そのまま私を囲う腕と、体温と、耳元で聞こえる吐息が全てを停止させた。

「名前、俺………」


余所見した六月/2022.10.11
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