元芸能人だとバレた相手は職場の人に限るし、道枝さんこそガッツリ芸能人なので、外で会うことは止めることとなり。敬語やら名字呼びやら止めてくれと言われて渋々頷いた昨日。控えめにお願いされるその顔に弱いらしい。ただ、それはある意味"フリ"だった。23時、チャイムが鳴って扉を開けると道枝さん。

「遅くにごめんね。名前ちゃんの顔見たくなっちゃって。」
「………あ、そうなの?ありがとう」
「見れて満足。じゃ、帰ります!」
「あ、うん「あ、待って。」

額にリップ音を落として、ヘヘヘと照れ笑いしながら帰っていった。もちろん嬉しいのは前提だが、…なんだか嵐に体当たりされた気分だ。お互い仕事なので、LINEも多くできないしちょっとでも顔が見れたら、と言っていたそれが有言実行されたらしい。自然と頬が緩む。……が。そのまた明後日。夜21時、彼からの着信。

≪名前ちゃん、ご飯食べた?≫
「あ、うん。さっき…」
≪そっかー…もう遅いもんなぁ≫
「どうしたん?」
≪いやさ、Uber Eatsで頼みすぎてさ。一緒にどうかなって思って≫
「…あ、でもまだ小腹空いてるし頂こうかな」
≪ほんまに!?じゃあ悪いけど俺んち来てもらってもいい?≫

頷いて足を向けると、初めて家に入った緊張感を上回るご飯の量。唐揚げ、ポテト、ハンバーグ…どういう括り?そんでこれ4人前ぐらいない…?とあ然とする私を座らせて、ニコニコの笑顔がお箸を渡してくる。

「名前ちゃんと一緒に食べたかってん。二人の方が美味しいよなー」
「確かに。でもこの量…」
「うん。マジでミスったわ。」

頬いっぱいに頬張る姿は愛おしさ満載だが、なんだろうすごいグイグイくる。でも絶妙なラインで、嫌味に思えないところがやっぱりすごい。……ただ、言わせて欲しい。どこのどいつだ?控えめだったやつは。

「無理して食べるん無しな。あれやったらポテトとか食べてて」
「アハハ。大丈夫大丈夫」
「(残っても)また明日食べたらええし。」

でも可愛い。そしてどう考えてもこの量は確信犯だ。どう見ても一人前の量ミスったとかじゃない。多分、元々私を誘おうとしてくれたんだろうな…。と読めてしまう所も狡い。断るなんてしないけれど、なんだか、胸が温かくなる。きっとこれが、好いて貰っているということだ。

「……めっちゃ食った。もう動かれへん……」
「若いって食欲すごいね…。」
「俺とそんな変わらんやん。何言うてんの」
「変わるよ!!4つやで!?高校生の時被らへん差やで!?」
「おぉ…勢いすごいな。ごめんごめん」

床で大の字に寝転ぶ道枝さんに噛みつくかのように叫ぶと、満腹顔で微笑まれる。…あぁ、これ本気で思ってないやつだなとか重ねた時間から分かってくる。多分歳とか、どうでも良いんだろう。携帯を覗くと23時前で、そろそろお暇の時間だ。テーブルに残っているご飯を冷蔵庫に運ぼうと片す私に、帰る雰囲気を勘付いたらしい。

「あ、置いといて俺やるから…」
「今ブタなんやから無理でしょ。冷蔵庫開けてもいい?」
「ブタって…。ありがとう、開けてくれて大丈夫」

アハハと笑いながら冷蔵庫に残った子達を運送。冷蔵庫の中身はザ・男の子でした…。それが終わって玄関に足を向けると、そこは付いてきてくれていたらしい道枝さんが何かを差し出してくる。

「…え?」

手のひらに置かれたのは、銀色の鍵。自宅のそれとの差異が分からないぐらいなのが、実感が増す。

「え…っ、と、」
「持ってて。」
「でも…「お守りとでも思っててや。」

王道の展開過ぎて息が心臓で詰まっている。実感が身に染みてトキメキまくっていると、恥じらいからかキョロキョロと色んな方向を向く彼がかわいい。いやっ、深い意味とかなくて…。持っといて欲しいなって…。とタジタジな姿はまさに愛おしいを具体化している。このまま連れて帰りたい…。

「あ…ありがとう。無くさないように厳重注意の上保管いたします。」
「アハハ。保管じゃ意味ないからちゃんと持っててよ」

この笑顔に次、いつ会えるのだろう?と思いながら頷く。彼らの仕事は本当に様々なのを重々承知している。だからこそ、一瞬一瞬を大事にしたいな。と思いながら部屋を後にした。

*

ジェンガせーへん?と連絡が来たのはその10日後だった。意外と早く連絡をくれたことに感動で、携帯をライオンキングのように両手が持ち上げて喜んだことは絶対内緒にする。でも、ジェンガしようという謎のお誘いが可愛いすぎやしないか?と尊さに打ちひしがれていたそんな当日22時過ぎ、道枝さんの家で対決中。

「罰ゲーム何する?」
「えー…痛いの以外!」
「アハハ。じゃあー、負けた方は勝った方の言うことを聞く!でどう?」
「オッケーです!」

了承するとニコニコしている彼に思う。自分が勝つ気満々なんだろうと。絶対負けない…と先行である私は余裕で進めていく。その隣にはおつまみにポッキーとポテチ、ジュース。用意してくれたんだなぁと思うと頬が緩む。

「でもなんでジェンガ?」
「…え?別に。なんとなく」
「……怪しいなぁ。何に感化されたんかなぁ?ん〜?」
「……いや、ほんまに何も無いって!何を言うんだね君は」
「いや怪しさしかないやん。」

ジェンガに感化されること…なんだろう?一生懸命脳裏を探ると、最近恋つづ(ドラマ)の再放送をしていたことを思い出す。最後らへんでそんなシーンあったな…と思い出した私の表情がよっぽど気持ち悪かったのだろう。

「……なんかすごい顔してるで名前ちゃん」
「道枝くんよ、恋つづやろ…?再放送見たんやろ…?」
「いやっ…えっ…違うって!何言うてんの」
「アハハ!かーわーいーいー。」
「やから違うって!もう!」

否定すればするほど、そうです。と言っている表情と言葉が愛おしすぎるこの生き物。こんなに好きなのに、いざとなると不安しかない私に苛々する。胸を張って彼女です、と言える日は来ないかもしれない。…でも、その分、埋めてくれると、言ってくれたから。

「今はそうじゃないかもしらんけど、それでも良くて」
「俺がその分好きやから。埋める自信しかなくて。」


「思ってたんやけど、道枝さんってお休みなさそう」
「んー…丸一日とかは全然やな…。半休とかやったらたまにある」
「ど…どうやってこの元気さは保たれているの…?」
「えっ今やん。名前ちゃんとおると元気なるで」
「オッ……」

嬉しい、が言えずにオッ…なんて漏れた言葉がリアルで泣ける。嬉しすぎるとオヤジゴリラになるらしい。もう歯抜けだらけのジェンガを睨む道枝さんは、てかさ、と言葉を溢す。

「"道枝さん"って止めていただけますか。」
「はっ!!…ごめん駿く…んですね」
「そうそう。…なんか懐かしいなぁ」

嬉しそうに微笑んだみちえ…いや、駿くんは、歯抜けすぎるジェンガの中一本抜いたようだ。悪い顔をして笑っている。いや、でもこの中でよく抜いたな…凄すぎるぞこやつ…。でももう本当に抜けるところがなくて。案の定、私めが倒しました。

「アハハ!名前ちゃんやったなー」
「いやこれもう無理ゲーやったやん…」
「はい罰ゲームー。何しよっかなー」
「くっ……」
「あっ!いいの思いついた」

キラキラした目と視線が合う。…い、嫌な予感だ。いつも自然発光しているのに、それが余計に輝いている。不吉な、予感…!


きらきらぽわぽわ/2022.11.5
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