その後撮影が再開されるのと同時に持ち物披露が行われて、道枝さんはスニーカー・イヤホン・小型扇風機だった。私は置き型のプロジェクター・アロマディフューザー・大きめのぬいぐるみ。

「スニーカー?かわいい」
「でしょ?これね、散歩用に最近買ったんだけど履く機会がなくて…」
「あっ散歩好きなの?」
「そう!歩くのが好きで…」
「えーいいね!今度お散歩しようよ、私も歩くの好きだし」
「えっマジで?めっちゃ嬉しい!スニーカーくんの初デビューだわ」
「おめでとうございます。」
「アハハ。ねえ、色々聞きたいけどまずそのぬいぐるみ…」

指を差されたのはアザラシのでっかいぬいぐるみ(身長55p)。ちょっと半笑いなのに異議申したい。ちょっと駿くん、から私のアザくんプレゼンを始めるとする。

「この子ね、アザくんっていうの。"くん"までが公式名ね。」
「アザくん?」
「そう。でね、すっっごいモチモチふわふわなの!抱いてみて、絶対ハマるから。」
「お、おぉ…。」

私のノーとは言わせぬ圧倒感にアザくんを受け取ると、ギュッと抱き締めて…。ぽかんとした顔で私に言った。

「…めっちゃ良い感じ…。腕に吸い付く…。」
「でしょ!?もうずっと触ってたいでしょ!?」
「え、うん。すげー癒やされる…離したくない。」
「でしょ?アザくんは中毒になるねん。ぬいぐるみなんか持ってきて…って思ってた自分に今なんて言いたい?」
「全力で罵倒したい。」
「うむ。許そう。」
「なんかアザくん抱いて映画とか見たいな。ちょうどいい」
「そんな時にこのプロジェクターです。ついでにアロマも炊いちゃって」
「名前ちゃん天才やん…。」
「よき妻でしょ?」
「はい。出来すぎる素晴らしい妻です。」

アハハ!と大笑い。関西人が出て手まで叩いちゃってる始末。後でマネージャーに怒られるな…。と思いながら自宅での撮影は終了となった。今で2話分らしい。結構ちょっとでいいんだなーと思うと、30分番組で2組カップルいるからねと言われて、なるほど。と納得。その後インスタ用の写真を撮り合ってほしいとのことで、番組用のiPhoneを手渡される。

「撮りますよー」
「あっ何から!?えっと…スニーカー!」
「うんうん。撮ってますよー」
「名前ちゃんも一緒に写ろうや」
「ほ。大変恐縮でございます…。」
「って言いながら大画面で自分かい!」
「アハハ」

関西感強めの写真撮影。それカメラ回ってる時にしてよ、とスタッフさんに言われたりもしたけど、さすがに…。関西強火すぎます。二人で自撮りしたり、お互いの持ち物を紹介風写真を撮ってみたりと意外と楽しい。可愛くてちょっとアホな弟と仲良しになった気分。

時刻はもう夕方で、本日分は撮了。そういえば、撮影初日だった割に結構仲良くなったなぁとしみじみ思う。同胞だからだな。と勝手に決めつけたりして。

「お疲れさまです。お先にありがとうございました」
「あ。いえいえ全然気にせず。」

衣装から着替え終わった道枝くんと、それ待ちだった私がリビングでご対面。彼の方が仕事が詰まってるので優先するのは当たり前だ。彼のマネージャーさんが車を回してくる、と言って先に出たので私服道枝さんがダイニングテーブルの向かい側に自然と座った。薄手のトレンチコートがよく映えるな…。

「今日、あっという間でしたね」
「本当に!でも楽しかった。」
「ね!俺も。本当、名前ちゃんでよかったなーって思ってて。」
「えぇ?」
「すっげぇ疑いの目!でもほんまやから!」

普段から敬語を止めよう、と提案したのは今日だからか混じってしまう敬語がかわいい。そりゃそうだよな、4つも年上の知らん女から砕けて喋れってね。でも頑張ってる感じがなんとも萌える。私ババア感すげーな…。

「名前ちゃん喋りやすいし。ボケツッコミし合えるし。」
「関西出身でよかった…」
「そういえばさ、関西のどこなん?…あっ聞いてもよかったら教えて」
「アハハ、そんな気遣わんでいいよ。大阪やでー」
「一緒!!え、すごない?なかなかの奇跡やと思う!」
「奇跡は待ってたんだ〜」
「うぉいおいおい!アハハ、えぇ知ってくれてんすか!?めっちゃ嬉しい」
「仲良くなれたらなーと思ってアルバム買いました。エヘヘ。」
「えっマジで!?ありがとう…言うてくれたらあげたのに」

でもそれはー、と言い掛けた言葉は、道枝さーん!と車を回してきたであろうマネージャーさんの声に遮られる。あ、ごめんなさい。と申し訳なさそうに頭を下げて、スタッフさん達に挨拶をして颯爽と去って行った。え、爽やかが過ぎるな何なんだ?そよ風のご退出?


2022.7.26
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