11月中頃。少し寒くなり始めた気がして、パーカーの裾を指先まで伸ばす。今日はロケスタートで、近くの大きな公園を散歩するところから始まる。道枝さんのあのスニーカーがお披露目だ。カメラが回ってほのぼのと散歩を始める。

「晴れたなぁ。お散歩日和!」
「嬉しそう」
「そりゃ、スニーカーくんのデビューですから」
「あっおめでとうございます。」

嬉しさが表情通り越してオーラみたいになってる。漫画なら道枝さんの周りにニコニコって文字が入るぐらい。そんな彼を照らす日差しもまた、ポカポカ陽気である。湖沿いを歩くのがまた気持ちいい。まだ会って二回目だが、こののんびりとした空間を生み出せているのが奇跡かもしれない。だってまだ撮影二回目!!(2回目)

「てかさ。」
「なんでしょう」
「駿くんと服お揃いみたいになってない…?」
「……あ。ほんまや色違い。真似したん?」
「してへんわ!たまたまやけども…」

道枝さんは薄いカーキのパーカーで、私はアイボリーのパーカー。スタッフさん達にある意味ハメられたようなもんだ。絶対わざとに決まってる…!と私も彼も思ったであろう。視線がそう言っていた。そして数m先に少しメルヘンチックな郵便ポスト。…ミッション入ってるやつや見たことあるぞ(前シーズンで)。

「……駿くん。」
「…はい」
「…見えましたね」
「……はい。ポストですね。」
「あれは…例の…」
「(カード)入ってるんですよねきっと…」

一気に緊張がこみ上げてくる。のを、ダダ漏れで歩く私達。急に口数が減るのもまさにそれだ。ポストの前に着くと、開けて開けて、と道枝さんに擦り付ける。じゃあ…と開けると、もちろんミッションの書いた紙。読み上げてくれるも…

「"お互いが思う【少し】だけ手を繋いでください"……」
「少しだけ…?」
「えっどういう意味なんやろ。少し…?時間?」
「かなぁ…?指数本だけ繋ぐとかじゃなくて?」
「待ってそれは新しいな。えっ?」

道枝さんの爆笑が後から襲ってくる。指数本て!と笑いながらも、"少し"に困惑。やたらと強調されてるし、単に時間じゃないような気がする。スタッフさんを見ると、カンペに"自分たちの思う少しでいい"とのご指示が。私達の思う、かぁ…。

「…じゃあ、俺の思う"少し"やってみてもいい?」
「うん、なんだろう」

とりあえず歩こう、と言われて先ほど同様に歩く。…不意にくるパターンか。あーそれはちょっと心臓に優しくないなぁ、と思いながらも指が絡まってない方の、一番オーソドックスで手を繋がれる。あ、なんだろう…壊れものを包み込むような、触れ方でちょっと息が止まる。でもこれ多分、この後の指数本絡めへの伏線だよな。じゃないと道枝さんが普通のやつするわけない。…何となく。そして5秒足らずで離れていく。

「これ。かなぁ…」
「でもそうだよね」
「じゃあ次名前ちゃんね。」
「…ねえ、もうフリだよね。ねえ?」
「え?何言ってるか全然分からん」

白々しい知らんぷりを頂いて、さぁどうぞ(数本指絡めてこい)!!感で見てくるミチエダ。背高いから必然的に見下げられるのもプラスでちょっと腹立つ&恥ずかしい。でも、私の思う"少し"だけ手を繋ぐって、……

そっと、彼の右手の小指と薬指をキュッと握った。昔の彼氏によくやっていたなぁ、としみじみ思い出す。手を繋ぐのは恥ずかしいけど、少しだけなら…なんて思っていたあの頃が、まさに今やってきた。

「……、…」
「……なんか言ってよ」
「…いや、……なんか」
「?」
「……いや何でもない。」
「、?えぇ〜」

口を手で押さえて、顔を背けたまま振り向いてくれないのできっと照れてるんだろうなぁとほわほわした。道枝さんはとっても分かりやすい。かわいいな。こっち向いてよ〜なんて手を繋いだままちょっかいを掛けてみても、やめて〜〜と見せてくれない。でも無理矢理手を離さないところがまた。

「……、…」
「え」

なんて思っていたら、数本だけ繋ぎにいっていた指が、絡められるように繋ぎ直されて。いわゆる恋人繋ぎ…。不意打ち過ぎてちょっかいを掛ける言葉も沈んだ。この人こんなことも出来るんだ…恐るべし20歳。なんて、素で照れる今を自分で必死に咎めてる。……待て待て。

「良い、天気だね。」
「…え。あ、うん。」

こういう時こそ関西弁でいてよ。緊張が更に移る…。なんて、離されない手はそのままで、カットが掛かるまでドキマギなお散歩を続けるのであった。


2022.7.27
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