扉が開くと同時に、缶チューハイが大量に入った袋で顔を隠した。ひょっこり顔を出せば、ちょっと呆れながらも笑う可愛いゴールデンレトリバー。招かれる言葉なんぞなく、押し入って行く私は夜のバケモンみたいだ。21時過ぎ、扉が閉まる音が響いた。

「みち〜〜〜。もうやってけないさ…」
「なんくるないさ…とはよう言わんな。」
「イーヤーサーサー!!」

正方形のこたつテーブルに項垂れる。テレビが真正面に見える位置が、私の定位置。家主のみちは斜め前。増える空き缶を袋に詰めながら、隣に置いてあるポッキーを開けてくれる出来た子。彼とは数年前、家庭教師のバイトで出会った教え子で…そこからの付き合い。だから幼なじみというには浅く、普通の友人よりは仲が良い。…と、思う。

いつも、なんで付き合ってるのか不明な彼氏の愚痴を聞いてくれる(?)。こうやって押し掛けても家に入れてくれるし、普通に泊まっていくし、よく話を聞いてくれる年下の友達。が、しっくりくる。

「もう私じゃないんだよね…分かってんだけどなぁ」
「まぁ長いこと付き合ってるもんな。」
「そう!情もある。し、結局私に戻ってくるしさぁ…。」
「んー、でも都合の良い存在になってない?」
「グサッ…。痛いとこ突くね」

効果音、と笑うみちは良いよ。スタイル抜群で顔も可愛いし、何より抜群にやさしい。彼女なんて作ろうと思えばすぐ出来るタイプ。今なんでいないのか世界の不思議。そして私とは違い過ぎる。人間の出来から、全て…。泣くフリをすれば、ポリポリとポテチの咀嚼音。

「それでも名前ちゃんは彼氏さんが良いんやから、しゃーないよな。」
「みちちゃん今日は厳しいな…!反抗期…!?」
「だって名前ちゃん毎回同じこと言うてんねんもん」
「ごっ…ごもっとも…です…。」

咀嚼音が呆気なさを誇大化するようだ。毎回繰り返すそれでも、みちは付き合ってくれるんだから感謝だ。23時を回ったとき、彼はパタパタと動き回っていた。どこかに出掛けるのだろうか(脳が酒で侵されてる)…。

「名前ちゃん泊まってくんやろ?化粧落としといたら?」
「えぇー…動く気力なすび。みっちゃ〜ん…」
「…いや良いけど、肌痛めるで?」
「えーねんで…。」
「はいはい。」

ん。と目を瞑ったまま、顎をコタツに乗せて突き出す。拭くだけコットン待ち。隣にみちの気配がして、ほっぺに冷たいコットンが乗る。あー…まだ飲みたいんだが…。

「名前ちゃん明日は?」
「仕事ですぅ…。みちは」
「俺も。…もう寝たら?」
「、いやだ…」
「いや寝てるけどな。」

顔がスッキリした後、薄れゆく意識の中で身体が持ち上げられる。いつものごとく、運搬してくれてありがとな…。と思いつつ、意識を手放すのだった。

*

物音が煩くて目を開ける。起きて目の前にみちが居てワオ!なんてことはない。私はリビングのソファで、みちは自分の部屋で寝るのが何となくの決まり。少し焦げ臭い匂いがして、上半身を起こす。

「なんか焦げてない…」
「あっおはよう。えっ焦げ臭い?…あっ目玉焼き忘れてた!」
「……」

寝ぼけた目で、アタフタするみちを見つめる。今日も楽しそうだな…。二度寝しそうになる私に気付いたのか。目玉焼きを救出中のみちが、起きて!後30分で出るで!と言っているらしい。眠気には勝てずその言葉は木霊化した。

「も〜〜名前ちゃん!遅刻すんで!」

焦る背中が容易に想像が付く。少し焦げた目玉焼きと、焼きすぎてぱっくり割れたウインナー。千切れていないレタスに、表面が黒いロールパン。いつも作ってくれるメニューなのに、毎回焦がすみちが可愛くて。彼氏との鬱憤を消し去るほどの癒やしがそこにあった。


缶チューハイを7本とばけもん/2023.3.10
back